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ゲームブック

自分なりの三国志を創作するのが夢でした。

 一冊の本が俺に届いた。

 『三幕志(さんばくし)~鎌倉vs室町vs江戸』。

 ゲームブックだ。

 ゲームブックとは、某フリー百科事典によれば、「読者の選択によってストーリーの展開と結末が変わるように作られ、ゲームとして遊ばれることを目的としている本」である。


 発送元は、新興のインターネット通販会社。

 『六天市場(ろくてんいちば)』。

 明らかに「楽××場」を意識した企業名。

 書籍用のクッション封筒に印刷された「ROKUTEN」のロゴも「RAKU×××」と紛らわしい。

 創業者の現社長は「魔王」と自称しているが、その社長の名字から『織田(オーダー)メイド』とも呼ばれる自社制作の限定品は、購入者の人生を変えるほどの奇跡を招くと噂され、カルト的な人気を博しているらしい。


 ゲームブック『三幕志』は『織田メイド』の一品であり、期間内に『六天市場』のアカウント登録をおこなった利用者の全員に無料でプレゼントされる試供品でもあった。

 

 十六年の人生で、俺は自分の凡庸さにホトホト嫌気がさしていた。

 他力本願でも構わないから、自分の未来を変えたかった。

 そこへ無料キャンペーンは渡りに船だった。

 何といっても金欠の高校一年生である。

 金銭的に損をしない状況は、奇跡を願うよりも優先された。


 アカウント登録後、数週間。

 封筒から急いで中身を取り出すと、派手な表紙イラストが、まず目に焼き付いた。

 日本刀を振りかざした三人の武士が描かれ、彼らはそれぞれ「鎌倉」「室町」「江戸」と書かれた(のぼり)を背負っている。

 彼らの傍らのフキダシに、ゲームの目的らしきセリフが踊っている。

 「三幕(さんばく)を統一せよ!」。

 「最強幕府は我が幕府だ!」。

 「将軍王に拙者はなる!」。

 表紙の中央に作者名が鎮座する。

 『討獣(うつけもの)』。

 本の帯には大仰なキャッチコピー。

 「物語の世界観に引き込まれる、著者入魂の傑作」とある。


 ゲームブックと奇跡はどう結び付くかと問われれば、そのゲームの内容に感化されて人生が劇的に変わるという答えになるだろう。

 しかし、届いた本の表紙を見た限り、遊ぶ価値のある内容とは全く思えなかった。

 もともとゲームブックにも歴史にも無関心だったことを差し引いてもだ。

 噂と実態の落差への失望。

 自ら汗を流さずに奇跡を成就させようとした己れの甘さへの反省。

 平凡な人生を歩む未来への諦念も湧き上がる。

 混乱した心を整理できないまま、本のページを俺はめくろうとした。


 その刹那。

 激烈な耳鳴りに見舞われたのだ。

 例えるなら、鼓膜を突き抜けたあと、頭蓋骨の内側で轟々と反響しつづける、この世のものとは思えないほど凄まじい吸引力の掃除機の運転音。

 猛烈な眩暈(めまい)も襲来し、部屋の景色をグルグルと回転させ、見慣れた光景を段々と真紅に染めていく。

 直感的に俺は理解した。


 物語の世界観に引き込まれるどころの騒ぎじゃない!



 物語の世界そのものに吸い込まれつつあるのである!!!



 これから、俺、どうなっちゃうの?????

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