昼休みの過ごし方
昼休み。
友だちは誰もいないので、当たり前のように一人でお弁当を食べ、今は図書室に向かう所だ。
自分で言って寂しくないのかって?
寂しくないわけないじゃないか。
そんなことを訊かないでくれ。
僕が昼休み図書室に行くのは日課になりつつある。
昼休みすることが無くて暇だというのもあるが、僕は絵を描くだけでなく、本を読むのも好きなのだ。
そして、挿絵のキャラをスケッチブックに描いたり、とあるシーンを想像してスケッチブックに描いたりするのも好きだ。
最近ハマっているジャンルは、ファンタジーだ。
ファンタジーは読むだけでなく描くときも楽しい。
魔法使いが魔法を放つシーン。主人公が竜と戦うシーン。
どの場面を想像しても、楽しくて仕方ない。
描き始めれば、鉛筆が止まることを忘れてしまう。
今日はどんな本と巡り合えるかな?
「失礼しますー」
なるべく扉の音をさせないように開け、小声で入る。
普段の昼休みなら、僕以外にも数人いるはずなのに、今見える範囲には生徒は誰もいなかった。
もしかしたら、貸し出しをしてくれる司書の先生の他に今日は僕一人かもしれない。
少しワクワクしながら、図書室の本棚を見て周る。
もちろん最終地点は、ラノベが置いてある本棚だ。
ゆっくりラノベの本棚に向かっていると、机の上に本が一冊置いてあることに気が付いた。
「誰だよ。ちゃんと本は本棚に戻さなきゃダメだろ」
僕の足は本棚とは違う方向に向かっていた。
近寄ってみると、僕が今まで見たことがある本とは全然違っていた。
まず、言語が違う。
表紙の文字を読む限りじゃ、なんて書いてあるかなんて分からない。
本を手に取り、ペラペラと捲ってみる。
それに、物凄い上質の紙だった。
けれど、何処の国の言語かも分からないし、なんて書いてあるのかも分からない。
なんとなく椅子に座り、最初のページから読んで(見て)いく。
変な記号の羅列にしか見えない。
この言語を理解し、尚且つ読むことができる人がいるなら、その人はきっと僕とは頭の出来が違うんだろう。
「全く分からない」
それでもペラペラとページを捲る手を休めない。
しばらく本を見ていると、丁度真ん中に差し掛かった頃、上から声が聞こえてきた。
「何勝手に人の本を読んでいるの」
今までに聞いたことがないような冷たい声だった。
僕が声の主の方へ視線を向けると、声の主は腕を組んで仁王立ちをしていた。
どうやらこの本は彼女の物で、僕が勝手に中身を読んでいることにご立腹のようだ。
少なくとも僕はそう感じた。
「ご、ごめんなさい!」
こういうときはこれ以上怒らせないように、怒りを静めるのを最優先に考えるのがいいのだ。
僕はすぐさま本を閉じ、彼女に返す。
「あなた……!」
一瞬彼女は驚いた顔をした、ような気がした。
だが、その本を彼女は片手で受け取ると、僕に対する興味は失せたかのように踵をかえした。
何の本なのか気になって彼女を引き留める。
「ねえ。えっと、初めましてだよね。
僕の名前は、山村 真斗。クラスは3組。君は?」
僕が彼女に問いかけると、少しだけこちらに身体を向けて、小さな声で呟いた。
「私に名前を問いかけるのは無意味だわ」
そういって鋭い視線を僕に向けた。
僕は彼女に何かしてしまっただろうか?
彼女の目つきが悪いから睨んでいるように見えるわけじゃなく、彼女は意図して僕を睨んでいる。
「それってどういう……?」
「私の名前を訊いた所で、明日にはあなたは忘れているもの」
そうだろうか。
こんな印象強い人なんて、僕でなくともなかなか忘れるなんてできないと思う。
「大丈夫! 僕記憶力だけはいいんだ!
だから僕は絶対君を忘れない」
僕の記憶力の良さは、唯一の特技といっても過言ではない。
それぐらい僕は記憶力に自信がある。
「そう……」
彼女は消えそうな声で一言溢し、歩き始めた。
図書室の扉に手をかけた所で、たった今思いついたかのようにポツリと言った。
「私は和田 氷華。クラスは3組」
静寂の広がる図書室に、彼女の声がやけに大きく聞こえた気がした。