悪運
「なんでだよー!! 神様なんて嫌いだー!!!」
僕は家に帰って自室のベッドの上で、愛用の枕を抱きしめ叫んでいた。
神様によって、有頂天になっていた僕は絶望へと突き落とされた。
「なんで、図書委員が小林さんじゃないんだよー!」
そう、僕はじゃんけんに勝って、見事図書委員になることができた。
だけど、当然のように女子で立候補者が複数人いたら、じゃんけんするわけで……。
天使は負けてしまったのだ。
結果、女子の図書委員は、僕の後ろの席の和田さんだ。
これから委員会の仕事の度に彼女と鉢合わせることになるだろう。
自己紹介の時にずっと睨まれていたことを考えると、不安しかない。
「結果、小林さんはクラスの副委員長になったし、クラス委員長はよりにもよって松下君だしー!」
じゃんけんでは勝ったが実に負けた気分だ。
天使が副委員長に決まり、クラス委員長が松下君に決まった時の、あの松下君の顔が忘れられない。
どこか僕らを見下したような、勝ち誇った表情をしていた。
その時の事を思い出してムカムカしてくる。
「あー、もう! なんで勝っちゃったんだよ、僕!」
そういえば、僕の今年一年の運は神様に願ったせいで、使い果たしてしまったんだった。
今は四月上旬。つまりあと九ヶ月は、運がない高校生活を送ることになる。
あー、高校生活が今日から始まるというのに……。
「真斗! さっきからうるさいわよ! 何してるの!」
ベッドの上でバタバタと足を動かしていると、下の階のお母さんから苦情が来てしまった。
もし、悪運続きの高校生活をおくることになったら……。
その続きを想像して頭を振る。
きっと神様は僕なんかを見てはいないはずだ。
そう思おう。
僕は机の上に置いてあるスケッチブックを手に取り、真っ白なページを開ける。
今日、桜の木の下で見た天使の姿を脳裏に思い出し、鉛筆を動かし始める。
大きな桜の木を一本描き、それを見上げる天使の姿。
自然と天使の羽を書き足してしまう。
そして、ひらひらと舞い落ちていく桜の花びら。
僕は一心不乱に手を動かしていた。