自己紹介
新学期お決まりの自己紹介で天使の事を詳しく知ることができた。
天使の座っている席から前の教卓に来るまで、僕は一瞬たりとも目を逸らさなかった。
もちろん、自己紹介中も瞬き以外はずっと見ていた。
小林 あかり。
ショートボブでふわふわとした髪の毛に低めの身長の天使は、中学では吹奏楽部でフルートをしていたらしい。
高校でも吹奏楽部を続けるそうだ。
ぜひ、天使の奏でる美しい音を聴いてみたい。
趣味はお菓子作り。
好きなものはかわいい物。
嫌いなものはお化け。
と、なんとも女の子らしい自己紹介が行われ、可愛らしい容姿も相俟り、クラス中の男子が天使に夢中になった。
女子からはあまりいい顔をされなかったようだが、天使は大丈夫だろうか。
天使の自己紹介が終わってからは、ぼーっとクラスの人たちの自己紹介を聞いていた。
次々と自己紹介が続いて行く中、僕の番が回ってきた。
「僕の名前は山村 真斗です。
今年県外からこっちに引っ越してきました。
なので、皆さん仲良くしてくださると嬉しいです。
好きな物は、ハンバーグ。
嫌いな物は、ピーマンかな?
趣味は絵を描くことです」
クラスのみんなが拍手をしてくれて、僕は自分の席に戻る。
自分の席に戻る時にすれ違い女の子が、教卓の方へ向かう。
僕は自己紹介している時、ひしひしと視線を感じていた。
彼女からの視線だ。
なるべく僕は彼女を見ないようにしていた。
だけど、彼女の蛇のような目つきは、僕にカエルの如く不安と恐怖を与えた。
僕は彼女に何かしてしまったのだろうか。
全く覚えはない。
このクラスに僕を知る人は恐らくいない。
僕は見覚えがないし、そもそも県外に僕の知り合いなんていないのだ。
和田 氷華。
腰くらいまであるんじゃないかと思うぐらいの長いストレートの髪に、モデル並みの高身長。
中学では帰宅部だったらしい、高校でもきっと帰宅部なんだろう。
彼女は特に好きな物も嫌いな物も言わなかった。
彼女の自己紹介中も彼女はずっと僕を睨んで…いや、直視している。
もう一回言おう。
僕は彼女に何かしただろうか。