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一目惚れ
四月―――。
開花が遅れるかと思われた桜は無事に美しい姿を見せ、桜の木の隣を通り過ぎる人々を感嘆させた。
僕もその感嘆させられた人の一人だ。
だけれど僕は次の瞬間、桜よりも目を奪われる光景をこの目に映してしまったのだ。
とある理由で、編入することになった新しい高校の校門。
登校途中で見たどの桜よりも大きく、見事に力強く開花している桜の木の下に一人、天使がいた。
もちろん天使は比喩なのだが、思わず僕の口からそんな言葉が出て来ていた。
時々薄いピンク色の桜の花びらがひらひらと舞い散る中、天使は大きな桜の木を眺めていた。
僕はきっとこの時、ここにいる天使に一目惚れをしてしまった。
だからだろう。
入学式が終わり初めて盛大に驚いてしまった。
校門のすぐ傍の大きな桜の木の下にいた天使が、近づくことさえ躊躇われた天使が、まさか同じクラスになっているなんて。