天使って誰? 和田さんって誰?
「あー、もう僕は立ち直れないよー」
ショックだった。
高校の校門で一目惚れをした天使。
自己紹介や普段の生活を今まで見てきて、僕の理想の女性そのものだった。
けど、その素は全然違っていた。
ある意味、僕はちゃんと天使の事を見ていなかったんだろう。
だから、天使が自分の理想と違ってショックを受けるなんて、天使に失礼だ。
けれど……。
「夢にまで見た理想の女性だったのになー」
自分の理想そのものだったから、余計に期待してしまった。
その分、受けた衝撃は大きい。
僕は一つ決意をする。
「よし! 今日のことは忘れよう!
きっとあそこにいたのは天使じゃなかったんだ!
天使のそっくりさんか、実は天使に姉妹がいたとか……。
そう思おうっと。
今日はもう寝る! そして忘れる!」
天使の事を頭から追いやると自然と思い浮かぶのは、図書室で出会った和田さんだ。
彼女が図書室で最後に言った言葉。
『私は和田 氷華。クラスは3組』
彼女は3組だと言っていた。
僕も3組だから、彼女は僕のクラスメートのはずだ。
だけど、僕の記憶に和田 氷華という名前の女子生徒はいない。
僕は記憶力に絶対的自信がある。
なぜなら、今までの記憶を一切忘れたことがないからだ。
興味本位で調べた円周率は、サイトに載っているものは完全に覚えているし、テストの前は全教科の教科書を丸暗記なんて毎回している。
もちろん、今も覚えてるから、やろうと思えば中学1年生の教科書の内容を、最初から順番に紙に写すことだってできる。
「なのになー。なんで和田さんを覚えてないんだ?
1番秋田、2番池本、3番石田……んで、最後が僕」
念のため、指を折りながら出席番号順に名前を思い出していく。
やっぱりどこにも和田なんて苗字はない。
「あっ、苗字が和田なんだから僕よりも後じゃん! 順番に言った意味……」
そして僕は気付いたことが一つだけある。
僕の席の後ろには、誰も座らない空席がある。
もしかして、その席が彼女の席……?
僕はずっとあまりの席で、先生は除けるのがめんどうだから放置しているのかと思った。
けど、もしそこが彼女の席なのだとしたら?
彼女が一回も教室に来た事がなかったら?
「だったら、僕が忘れてたわけじゃないじゃん」
でも、なぜ先生は彼女の事を言わないんだろう。
ここ1週間先生の口から和田 氷華の名前を聞いたことがない。
でも放課後、廊下で天使や彼女と話していた。
彼女が教室に来ていない理由が何であれ、ホームルームの時にでも彼女の欠席、あるいは遅刻を伝えるはずだ。
「あー! 考えても分からない! 今度こそ寝る!」
「真斗うるさい! もう遅いんだから寝なさい! 明日も学校でしょ!」
「はーい」
母さんの声もなかなかに大きいと思うんだけど……。
という言葉は心の中に留めておく。
僕は自分のベッドに入り、布団を深く被る。