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God(…?)

 熱っ。


 ヨーコは右手にひりつくような熱を感じ、慌てて手を引いた。

 指の間から何かがすり抜け、落ちる。足元を見れば、フィルターの根元まで燃えたラッキーストライクの吸殻が三つ落ちていた。

 随分長居を決め込んでしまっていたらしい。ウエストポーチからスマートフォンを取り出して時刻を見れば、十時二十八分。作業場を離れたのが十五分より前だったから…ああ、やばい。せっかく悪くは無かったサワさんの機嫌を今度こそ曲げてしまうかもしれない。


 ヨーコは早足で喫煙所を出た。急がないと、この後も午後まであの鋭い視線で背中を穴だらけにされる。午後休憩のコーヒー代なんて貰える筈が無い。冷や汗を流しながら戻り道を進もうとしたヨーコは、ふと思い付いた。

 (作業は大分進んで、予定なら多分、二階の西フロアまでいっている。だったら、西玄関から入れば少しでも早く合流出来るかも知れないな。)


 踵を返し、逆側から向かう事にしたヨーコ。確か、一旦車道に出て直ぐに西玄関があった筈だ。そうすれば入口近くの階段をあがって、それから…


 突如、左から鋭い、重い何かが抵抗を持ちながら滑る音。振り替える。

 ああ、車道には車が走っているのだった。妙にゆっくりと過ぎる時間の中で、迫る軽トラックを見ながら、ヨーコは当たり前すぎる事を思った。

 衝撃が走る。視界が回り、ヨーコは自分が車に跳ねられたらしいと認識した。


 「ヨーコちゃん!!!」


 あ、タナカさん。スミマセン。

 ヨーコの意識はそこで、闇に飲まれていった。


------------------------------------------------------


 音、音がする。無数の音だ。


 高い音、低い音。手足の先端まで震える音、臍の下に響く音。七色に煌めく音、無色の音。暴れる音、沈む音。踊る音、佇む音。寄り添う音、突き放す音。

 頭を撃ち抜き、心臓に突き刺さる、音、音、音達の群れ。


 「…何で、死んだ後まで、音楽が鳴ってるんだ」


 嫌がらせかよ、とヨーコは呟き、ゆっくり目をしばたたかせた。人生で最悪の目覚めだ。だがしかし、その人生というやつも、先程呆気なく終わってしまった。そう、軽トラックに跳ねられたら、大体の人間は死ぬ。


 取り敢えず起き上がり、自分の身体を検分する。手足も問題なくついているし、身体が血塗れということも無い。跳ねられる直前と同様の姿だ。流石に、潰れたトマトのようになったであろう自分の身体を冷静に見つめたく等無いので、少し安心する。耳は、どうだろう。そういえば、いつの間にかあの尋常で無い音がほとんど聞こえない。まだ微かに何処からか聞こえるようだが…。


 そもそも、ここは何処だろう。天国か、地獄か?それとも所謂三途の川的な場所か?

 固くも柔らかくもない、白い床がずっと続いている。室内か屋内かも定かで無い。ここには自分しかいないのだろうか?

 辺りを見回し、後ろを振り向き、そこでヨーコは「ぎゃっ」と叫んで腰を抜かした。


 いつの間にか、背後に男が立っていたのだ。


 胡散臭い男だった。手足はすらっと長いが、肩は若干猫背に丸まり、両手をズボンのポケットに引っ掛け、だらりとした立ち姿。顔立ちは整ってはいるが、目付きが悪い。黒髪をボサボサに伸ばし、顎には薄らと無精髭、口には咥え煙草。

 極めつけに、着ている服ときたら、あらゆる極彩色をこれでもかと盛り込んだ、異常に派手なスーツだった。


 「………」

 「………」


 無言で見つめ合う、いや睨み合う二人。ヨーコは声も出ないまま固まっていた。


 (誰だこの人!?神様とか閻魔様とかか!?いやまさか。だって全然神々しく無いし畏怖する感じとか無いし!怖いと言えば怖いかも知れないけど!なんなのあの頭おかしい服有り得ない)


 あらゆる思考が飛来し、混乱の極致に陥るヨーコ。腰を抜かしたまま動けない彼女を睨み続けていた謎の男は、ぱちぱちと悪い目付きを瞬かせ、そして呟いた。


 「…間違ぇた」


 ぽろり、と咥え煙草が落ちた。

 ヨーコは更に混乱を深めつつも、確かに苛立ちを感じて、眉間にくっきりと三本筋を浮かべたのだった。




 

 

 

 

 



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