普通
お久しぶりです。
今回は少し分かりにくいかもしれませんが、どうぞ。
青年は異常であった。と言っても言動がおかしいわけではない。ただ普通ではない人生を送ってきたのだ。両親の離婚や宝くじの当選、やっとの事で今の会社に就職した。会社に入ってからもその異常さは変わらない。へまをやって地方に左遷されたと思うと、散歩中に取引先の社長を助け、本社に栄転。昇進したかと思うと、上司の不祥事で減給。青年は疲れ果てていた。
「はあ……」
大きなため息。青年はビールを勢いよく飲み干した。
「どうかされましたか?」
隣に座っていた男が声をかける。見かけは仕事に疲れた営業マン、といった風情だ。
「どうもこうもない。俺は悩んでいるのだ」
「それはいけない。病は気からと言いますからね。何にお悩みなのですか?」
「そう簡単に言えるものではない」
今までの人生のこと。こんな見ず知らずの人に言うはずがない。青年は拒絶した。
「そう言わずに。もしかするとあなたの悩み、解決できるかもしれません」
そう言って男は名刺を差し出した。
「精神的苦痛解消システム、第一営業部?」
「ええ。我が社は精神的苦痛、つまり悩みの解消を目的としています」
「ほお……」
「しかも、曖昧なものではなく、独自の研究施設で開発した薬を使います」
「薬? そんなものがあるのか?」
「はい、まだできた直後なので公表はされていませんが」
「で、それは俺に効くのか?」
「もちろんです。お試しなさいますか?」
「そうだな、無料というのなら試してもいいが……」
「初回ですので無料で結構です。では、悩みをお話ください。それによってお渡しする薬が変わりますので」
青年は今までの人生と、悩みを男に話した。
「なるほど、そんなことが……わかりました。その悩み、我が社が解決いたしましょう」
その後、世間話をし青年は男と別れた。
数日後、青年の自宅に小包が届いた。中には数本の瓶と、手紙が入っていた。
「初回のお試し分です。効果が見られるようなら追加でご注文ください」
「よし!」
青年は早速1本目を開けて飲み干した。今日も電車の事故で会社に遅れたところなのだ。効くなら早く試したい。
飲んだ直後は何もなかったが、朝起きて会社行く時から違いが分かり始めた。まず、電車では何も起こらない。事故も起こらなければ、運転手が寝坊したりもしない。有名人に会うこともなかった。会社でも同様だった。ドアを開けた途端上司とぶつかることもなく、極めて普通な生活であった。
「やったぞ!」
青年は喜んだ。
だが、次の日は効果が切れたのかいつも通りの生活に戻ってしまった。人身事故で電車が止まり、仕方なくバスに乗ると腰の悪いおばあさんがいて、家まで付き添って行くと、お礼にとリンゴをもらい、そのせいで会社には遅れた。
「効果が切れたのか。もう一本飲もう」
青年は2本目を開けた。そのようなことが数日続き、お試し用がなくなった。時間は短いが、効果に満足していた青年は追加を購入した。
やがて、徐々に効果時間が短くなり、青年は貯蓄も切り崩し、薬を買い続けた。そんなある日、あの男が訪ねてきた。
「どうしたんです?」
「あなた様が余りにも薬を購入されますので……」
「だめなのか?」
「いえ、しかしながらこの薬を買われるのはあなたしかおられず、あなた一人のために生産ラインが狂うので上司がもうやめろと」
「つまり、もうこの薬はない?」
「ええ。申し訳ありません。あなたの買うスピードが余りにも異常だったんですよ……」
ありがとうございました。
わかっていただけたでしょうか。
感想、アドバイスお願いします。




