『かわいい』って何ですか
『かわいい』って言葉には、色々な要素が詰まっている。
容姿、行動、言動、雰囲気、仕草、後は何だろう。
兎に角『かわいい』というのは、恋愛的な感情に、イコールとして結びつくわけではないのだ。
簡単に結び付きはしないけれど、確実に好印象には繋がるわけで、私にはその要素が損失していた。
なので、それは喉から手が出るほどに欲しいもの。
ただ『かわいい』なんて表現は、ひどく曖昧で定義もそのボーダーラインも分からない。
その基準を教えてくれ、と言いたいところだが、多分誰も分からないし、人それぞれと答えるだろう。
「ねぇ」
目の前の男の顔を覗き込む。
飽きもせずに、先月行われた練習試合のスコアを見ている男は、のんびりと顔を上げた。
そのスコアに向けていた真剣な目は、一体どこへ、と思うほどに眠そうな目だ。
「何?」
「どういう子が可愛いと思う?」
軽く首を傾けながら問えば、彼は一瞬口を噤む。
眠そうだった目が、教室の天井に向けられて「お前って言えばいいの?」と、苦笑混じりに言い出す。
有難いけど、そう言う事じゃない旨を伝えれば、彼はぽりぽりと頭を掻く。
それからのんびりと私達がいる場所――廊下側一番後ろの席の、一直線上の隅っこを指差した。
私はそちらに視線を向ける。
そうして、そこにいる人物を認識して、あぁ、と納得してしまう。
分かってるなぁ、と心の中で呟いた。
その子は勿論顔も可愛いが、性格も可愛らしい、俗に言ういい子だろう。
そんなに関わったことはないけれど、何となくそんな気がする。
そう、正にああいう子が男女共通であろう『かわいい』なのだ。
私があの子になるためには、先ずはどうしたらいいのだろうか。
何が足りなくて、何が足りているのだろう。
ジッ、と彼女を見つめる私に「お前はお前だよ」と彼が囁いた。
望みは希薄、そんなの分かってるけど足掻かせてよ。




