CLIMB DESIRE Ⅶ
コロシアムには都合の良いことに武器屋や防具屋、アイテムショップがあったので、魔法使い用の杖や魔力を高めるローブ。それからMP回復用のポーションを仕入れておきました。
聞くところによると、GMさんは僧侶だそうなので一応僧侶用の装備も買って渡しておきます。ここまでに知る機会がなかったのは今までに一度も戦闘に参加していないからなのですが、恐らくこれは運営がプレイヤーと接触する上での線引きなのでしょう。
『はぁ……』
「あれ?どうしたんですか?」
次の階層の階段に向かって歩みを進めていると、唐突に深いため息をついたGMさん。
『いえね、今プレイヤーの情報信号からみなさんにこのゲームを楽しんでいただけているかを探ったんですけどね?99%のプレイヤーが不満をもっているようでして。プレイヤーに配慮した良いゲームだと自負していたんですけどね……』
そのプレイヤーに対する配慮とやらがいけないんだと思います。
「デスゲームマニアの方々はプレイヤー同士の争いとかを目的にしてた節がありますからねー。ボクもコロシアムなんかは対人エリアだと思ってましたし」
『そうだったんですか!?次回のデスゲームの参考にしますね!』
「やっべ墓穴掘った」
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>完全に自爆である
>口は災いの元。無言でプレイせよ
>無言実況とかいう謎コンテンツ提案するのやめろ
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次の階段の前では2人の男女が会話をしていた。
「やはりマッサージは有用なスキルだったな」
どうやら前の階層でやたらとかっこいい会話をしていた2人組のようだ。なにやら面白そうな話をしている。
このゲームの運営方針的には星1スキルは本当に産廃なんだと思っていたのだけど……有効活用しているらしい。ボクはさり気なくその会話に耳をそばだてる。
「ちょこっと男性NPCにマッサージをしてあげただけで喜んで10000ゴールドを差し出して頂けましたものね?正攻法で素直に稼いでいる人たちと比べると圧倒的にリードできた筈ですわ」
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エッッッッッッッッッッッッ
露骨に我々のゴールドを絞りとってくる……いやらしい……
ふーん、エッチじゃん
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なにやらコメント欄が急速に賑わいだしましたね。それにしても、様々なパターンの稼ぎが用意されているのには思わず感心しました。星1スキルを取得したとしてもちゃんと役に立つように出来ているんですね。まあ、そうでなければそのスキルの存在意義が無くなってしまうわけですし、当たり前の話かもしれないですが。
そのまま2人は階段を上がっていったのでボクもそれに続いて次の階層に向かうことにました。
そして階段を上った先には——絶望が待ち受けていたのです。
なにせ、蒼い鱗に身を包んだ超巨大なドラゴンが身も心も凍りつくようなおぞましい雄叫びをあげていたのですから。
「クッ……いきなりボス戦か!」
「予測不能回避不能の不意打ち……これぞデスゲームですわね!」
【氷死神帝龍 ヒューガ】
【絶対的なる暴力の権化・五神帝龍の一柱。】
【あらゆる命を凍てつかせる『終熄』の権能で旧神を滅ぼしたとされる伝説の存在。】
【これまで人類が生態系の頂点に座していられたのは、かの龍のきまぐれに過ぎない】
【絶望せよ。君たちはここで終わる。】
【そんな君たちに救いがあるとするならば、世界の終わりを見届けずに済む事だろうか。】
「なんですか!?この明らかに強そうなボスは!?こんな序盤で出るような設定じゃないですよ!」
『そりゃそうですよ。ここがラストステージですから』
「えっ」
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>塔型ダンジョン『バベル』(全3層)
>唐突な制作打ち切りかな?
>五神帝龍(1匹)
>塔の外見と内部の大きさが乖離しすぎ定期
>↑そんな定期は無い
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ボク達の声を聞いて男女2人組は後ろに振り向く。
「ふむ、後発のプレイヤーか。丁度いい……ん?」
「共同戦線といたしましょうか。パーティの人数にはまだ空きがありますし、連結し……て……!?」
比較的良識派のプレイヤーなのだろう。即座に協力体制をとろうとしてくれたようだが、ボクらを見た彼らは目を見開いた。正確にはボクの後ろにいるGMさんを見て、といった所だろうか。
『あ、私のことはお気に為さらず』
「ふむ、プレイヤー達が無様に死ぬ姿を間近で眺めに来たという所か。だが、残念ながら期待には添えないぞ」
「そうですわね。それでもよろしければ、どうぞ存分に見学していってくださいませ」
お2人さん、流石の対応ですね。クールでハードボイルドなオーラに溢れていらっしゃいます。
さて、なんやかんやありながらもPTを解散し、再結成させました。ちなみに氷死神帝龍さんはその間律儀に待ってくれている。不意打ち気味の登場をして来た割には余裕を持って準備をさせてくれる所が今回の親切ポイントです。
エンチャントマジックを発動し、魔法攻撃力を増加させ準備完了。ついでに余っていたスキルポイントで魔導障壁やウィークレポートなどのオススメスキルを取得しておきます。
「ウィークレポート!……やっぱり炎属性が弱点のようですね。後は尻尾に攻撃を加えると非常に大きなダメージが与えられるそうです」
「なるほど、ではファイアスピアを取得しておこう。そうそう、自己紹介を忘れていたな。俺はx終焉を告げる悪鬼x」
「わたくしはEternal Angel。サポートに回らせていただきますわ。スピードアップ!リジェネレイション!」
「悪鬼さんにEAさんですね。ボクは卍荒罹崇卍です。よろしくお願いします!どうやらあのドラゴンはこちらが攻撃するまで動かないようですし、尻尾側に回り込んでから戦闘に入りましょう」
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> x 終 焉 を 告 げ る 悪 鬼 x
>EAちゃんかわいい
>速攻で略されてて草
>人の名前を省略するとか卍さん恥ずかしくないの??
>おまえがいうな
>だって卍さんの名前読めないし……
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名前が読めないなどとコメント欄で言い訳されているけど、たった今自己紹介したばかりですよ!
念のために忍び足でゆっくりとドラゴンさんを回り込んで移動するが、ドラゴンさんはボクたちの事なんか見向きもしない。ただじーっと階段を見つめて時折あの恐ろしい咆哮をあげるだけ。最初にこの階層に訪れた時はボク達に反応していたのかと思っていたが、実はただのパターン動作だったらしい。
そして、無事にドラゴンの後ろに回る事に成功したのだが、とんでもない事に気づいてしまった。
「……階段がありますね」
「……そうだな」
「……あがってみましょうか」
という訳で次の階層に進んでみると、いつのまにか先回りしていたGMさんが待ち構えていた。
『デスゲーム攻略おめでとうございます!』
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>絶望せよ。君たちはここで終わる(クリア)
>終わったから嘘じゃないんだよなあ
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「なんだが釈然としないが……あの龍は戦う事自体が罠だったという事なのだろうな」
「確かに強力なモンスターが伏線も無しに現れるのは違和感がありましたわ。愚かにも実力差を考えずに戦いに挑む蛮勇を否定する試練。それが第3層というわけですのね?」
『そういう事です』
GMは彼らの考察にしたり顔で同意した。
『では、賞金は指定の口座に振り込ませていただきます。今回はご参加いただきありがとうございました』
「わかった。いくぞ、Eternal Angel」
「わかりましたわ。それでは御機嫌よう」
そう言うとx終焉を告げる悪鬼xさんとEternal Angelはログアウトしていった。1億円の賞金を手に入れた割にはドライな反応ですね。やはり彼らもデスゲームが主目的だったのでしょうか。
「では、ボクは1億円は辞退しておきます。彼らと同じようにお金が目的という訳ではないので。その代わり、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
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>!??!?!!????
>配信のためだけにデスゲームに参加するやべー奴
>さっきの奴らと半分同類だろ
>全部同類定期
>おい、いらないなら視聴者に配ってくれ
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『いいでしょう。なんでも聞いてください』
「ありがとうございます。では1つだけ」
「最初はただ世間離れをしているだけの良心的な運営だと思っていました」
「しかし、それで結論付けるにしてはいくらなんでも不自然がすぎる」
「デスゲームガチ勢ではないボクですら、彼らの目的は共感せずとも理解できるのに、肝心の運営が意図的に望みを避けるかのような言動を繰り返す。おかしいですよね?」
「さて、単刀直入に聞かせてください——このデスゲームの目的はなんだったんですか?」
『復讐ですよ』




