スピリットコネクト - 2
それから私は元の世界に戻り寝る間も惜しんで研究に没頭した。
多数のプレイヤーをどうやって同一の仮想世界に引き込むべきか。幻惑・催眠など様々な手段を模索した結果、私が選んだのは精神接続魔導だ。この魔導を擬似的に誰にでも扱えるようにしたMRステーションを起動すれば意識の昏倒と同時に周囲の一定範囲に魂の領域とも呼べる空間が広がる。この魂の領域が重なった者同士は同じ仮想空間に引き込むことができるだろう。
そしてある2点に存在する魂の領域同士が隣接せずとも、その2点を繋ぐ中継地点となる領域が張られていればその場所を経由してそれぞれを接続することもできる。全く別の場所との領域の接続は難しいが、このシステムならば私の管理する街の中であれば問題なく動作する筈だ。後はこの領域内に出力装置を設置すれば人々を仮想世界に送り込める。ただし、一つ問題があった。
「どのような仮想世界を作ればいいのだろうか……」
この街の住民は魔導師である私が言えばMRステーションを使用してくれるだろう。問題はその後の話だ。
町の住民たちが面白いと思うとっておきのVRMMOを作らなければならない。
極論を言うならば強制的に仮想世界に入った住民たちにアシストソースを何度か適応させてやれば初歩の魔導は習得できる筈なのだが、それでは私のゲーマーとしての魂が収まらない。私がこれから作る物は魔導育成訓練機材ではなく、楽しく遊んで魔導を学べちゃうMMOなのだ。一体どうすれば面白い世界を構築できるのか。これから頭を悩ませる日々を過ごすことになりそうだ。
とりあえず試験的に1人この世界に入れてみることにした。この街の町長だ。町長が魔導を使えるようになったという実績があればこのゲームの浸透も早くなるだろう。
スピリットコネクト part1
1 名前:★運営[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
スピリットコネクトの世界へようこそ!
この世界は私が作り上げた異世界のようなものだ
ちょっとした実験だな。まあ楽しんでくれ
2 名前:アレク[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
こんにちは!魔導師様!
それで私は何をすればよろしいのでしょうか!?
3 名前:★運営[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
うむ、簡単だ。モンスターを倒したりしてレベルを上げてスキルを習得すれば良い
もちろんクエストなどを受けても良いぞ
4 名前:アレク[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
モンスター……?レベル……?
しまった!異世界の生活に慣れすぎて失念していた。この世界の者達はRPGなぞ知らない。なんということだ。
5 名前:★運営[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
モンスターは簡単に言えば動物だな
そいつらを倒せば現実でもなんか強くなれる筈だ
今いる街から出るとその辺にうじゃうじゃいるぞ
6 名前:アレク[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
は、はい、わかりました。やってみます
7 名前:アレク[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
ひ……なんなんですかあの動物は!勝てるわけないじゃないですか!?
8 名前:★運営[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
何ってただのウルフだぞ?
VRMMOでは初心者マップにいることの多い雑魚モンスターだ
まあ試しに倒してみてくれ
9 名前:アレク[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
ひ……うぅ……死にたくない……死にたくない——!!!!!!
10 名前:★運営[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
まてまて、大丈夫だから!危なくなったら回復するから
ただの町民では戦うことに抵抗があるらしい。そもそも死んでもいいからと言われて安心できるものなぞいないだろう。
今回は失敗か……
11 名前:★運営[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
というわけで次は君を連れてきた。君は狩人だからウルフとも戦えるであろう。
試してみてくれ
12 名前:ヴァレッド[sage] 投稿日:魔導歴xx年xx月xx日
なんて書いてあるかわかりません
しまった。この狩人、文字が読めない。一瞬なんでなんて書いてあるのかわからないのに投稿できるんだと突っ込んでしまいそうになったがこの掲示板は音声入力機能付きだ。仕方ない。私がログインして教えてやるとするか。掲示板というものに憧れていたのだが残念である。
「――というわけで、ウルフを倒せば強くなれるというわけだ。君は狩人だからできるだろう?」
私が問うと彼は焦りだす。
「いやいやいや、ウルフを倒すなんて無理に決まってるじゃないですか!確かに私は動物を狩っていますけどそれは罠などを活用した上での成果です。正面からウルフと戦うなんて自殺行為ですよ!」
「大丈夫大丈夫、あれ本物より弱いから。チュートリアルだから」
「いや……でも……」
「怪我しそうになったら助けるから!回復魔導もあるし、やってみよう。な」
「そこまでおっしゃるのでしたら……」
狩人はおずおずとウルフに向かって近づいていく。ウルフはノンアクティブだからこちらが攻撃するまで襲ってこない親切仕様だ。
狩人は手に持った棍棒を思いっきり振り上げ、勢いよく振り下ろす。ウルフはその頭を思い切り叩かれたが、いくらチュートリアルとはいえ一撃で終わってしまうほど甘くはない。瞬時に体勢を取り直すと、狩人の足に思い切り噛み付いた。
「痛ッ!!……くない」
「そうそう、大丈夫大丈夫」
あまり痛すぎるとショックでゲームを辞めてしまいそうなので痛みも無くしてある。リアリティを重視するために本当は残しておきたかったのだが、今回はユーザーフレンドリーでいかねば。
「えいっ!えいっ!」
狩人は噛み付いていたウルフに何度か棍棒の一撃を叩き込む。するとウルフはそのまま粒子になって消滅した。
「き、消えた!?転移魔導って奴ですか!?あのウルフは魔導も使えたのですか!?」
「いや、倒せたのだ。これでレベルも上がっただろう。スキルを振ってみよう……まずはステータスオープン!と発音して現れた文字の2行目を押す。そして現れた一覧から三番目の押して……」
識字能力がないために説明が面倒であったがなんとか習得することができたらしい。
「よし、これで魔導が覚えられたぞ。掌を前に突き出し【スキル:ファイアボール】と発声してみてくれ……」
「は、はい……わかりました。【スキル:ファイアボール】……ひゃっ!」
その瞬間、彼の掌を通じて魔力が変換され、炎が発生する。炎は一直線に宙を飛び、減衰して消滅した。ここは仮想空間故に実際に魔導が発動しているわけではないが、魔導を発動させるまでのステップはこれで体感できた筈だ。
「魔導が……使えた……!?」
「よし、後は何度かここで試して感覚をつかめば元の世界でも使えるはずだ」
「本当ですか!?」
「理論が正しければな」
異世界ではあの後VR空間で感覚を掴んだプレイヤーはライトニングボルトを現実世界でも使えるようになったらしい。そのシステムを魔導を利用して再現したのだから理論上は成功するはずだ。
狩人はその後、何度もファイアボールを撃ち練習を行い、現実に帰還した。さて……うまくいくかな。
「【スキル:ファイアボール】!」
現実に戻った狩人と合流した私は魔導訓練用の広場へと向かう。そして早速魔導を試してもらったわけだが、心配は杞憂だったらしく、無事に発動に成功したようだ。
「凄い……!これは狩りにも役立ちますね!」
「まてまて、ファイアボールを森で使ったりすれば大変なことになるぞ?他にもあの装置を使えば魔導は覚えられるからそれまでは我慢してくれ……それより、言葉を口に出さずに撃ってみてくれないか?」
「このスキル:ファイアボールっていう言葉、なくても使えるんですか?」
「あぁ、それはアシストソースを起動するためのキーワードのようなもので……まあやってみてくれ」
「……んん~……ん!」
狩人は私の言葉に従いファイアボールを発動させようとするが先程とは違い、彼の掌はうんともすんとも言わない。
「なるほど、異世界でもそうだったが、弊害もあるようだな……」
アシストソースによって最適な動きを体感したプレイヤーは経験した動きそのものを行うことはできるが、応用力というものに欠けてしまうらしい。
【スキル:ファイアボール】は実験の危険性を考慮してその出力をかなり抑えてあるが……この分では注ぎ込む魔力量を調整する、といった事も今は難しいだろう。魔導とは私達魔導師の叡智の結晶であるが、今回の仕組みはその叡智を理解せずに感覚で発動させる、いわばチートのようなものだ。
真に魔導を使いこなすことができるようにするための壁はまだまだ高いようである。




