スピリットコネクト - 1
この世界の定期視察を始めてから数年。周囲の光景を記録して映し出す装置、高速で自動走行する鉄塊、離れた場所との通信を可能とする道具。私は様々な発見をしてきた。勿論、それぞれの結果だけを見るならば我々ならばどれも造作もなく行える物だ。
しかし……逆に言うならばこの上なく希少な存在である魔導師にしか再現できない事象。それをこの世界の者は誰もが容易く発現させる事ができる。さらに言うならばこれらの現象の媒介として使われている装置、これらには魔力が一欠片すら使用されていない。異世界の法則で作られた道具の技術を元の世界でそのまま流用する事ができるのかは不明だが、大きな収穫となった。
だが言い訳をするわけではないが、この道具と同様の性能を備えた魔道具は私の魔導でも製作することが可能だっただろう。しかし、魔導師には自身の持つ特権を分け与えるなどと言う発想は無かった。自身の地位を貶める物を誰が作ろうと思うだろう?
しかし世界という視点で物事を語るならば多くの者が高位の事象を引き起こせるほうが発展は進む。魔導師という世界だけで見てもそうだ。私の世界では数十人しか存在しない魔導師達がそれぞれ別々の場所で好き勝手に研究を続けており、それぞれその研究の結果を秘匿し続けている。
魔導の叡智は基本的に一子相伝。しかし、万能を誇る大賢者ですら不慮の事故で命を落とし、その叡智の伝達が途絶えることも起こり得るのだ。このままならば魔導師達は緩やかに数を減らし、絶滅してしまう事だろう。
勿論非常に稀に偶然ながらも魔導の法則を掴み取り、新たな魔導師としての道を踏み出す者もいるが、当然ながらその技術力は初歩の初歩。我々の叡智にたどり着くには何世代かかることか。そんな技術の再発明が私の世界では太古から続いている。
しかし、端的に言えば、魔導師がもっと多ければ……そしてそれらが共同して技術の研究を行えば魔導の技術は今よりも遥かに進歩するだろう。
もちろん私が今から魔導を複数人に教える、という一石を投じることもできる。しかし、魔導の技術はそのような簡単なものではない。ただ一人の弟子に全身全霊を尽くしてその叡智を授ける必要がある。情けない話だが一子相伝とは現状の最適解でもあるのだ。魔導の初歩に限定するならば複数人に伝えることもできるだろうが、当然私の全ての叡智の伝承は成らず、ここで絶えることになるだろう。
そのような思考を巡らせながらも私はスマートフォンからHamazonのウェブサイトを閲覧している。そんな魔導師の未来について思考するよりも、今は他にすることがあるからだ。
「お、これこれ。ファイナルクエスト15!楽しみにしてたんだよなぁ」
——決して遊んでいるわけではない。
魔導という物が知られていないこの世界だが、それは現実の話。小説やゲームと言った空想の中では魔導と近似した現象があらゆる作品に描写されている。今はその調査をしているのだ。
調査を行った上での推論もある。この世界にも昔は魔導はあった。しかしなんらかの影響で現在は技術が断絶しているのではないかというのが私の見解だ。あるいは今もその叡智を秘匿している魔導師がこの世界にもいるのかもしれないが。
それはともかく空想の産物だからこそゲームは私には無い新たな魔導の発想を授けてくれる。
複数人のMPを集めて雷を落とすというミナサンダーという呪文には驚いた。我々の世界では魔導師でなくとも人間ならば誰もが魔力を持っている……が、その量は微量。魔力増幅の訓練を積んだ魔導師と比較すれば遥かに少ない。
しかし、その遥かに少ない魔力でも集めれば馬鹿にできない量になるのだ。
試しに町人300人を招集して魔力を集中させて豊穣魔導を発動させた時は想定よりも遥かに大出力で魔導が発動し、驚愕したものだ。堂々と大規模に実験を行ったため、他の魔導師に技術を模倣されているかもしれないが、私もこの世界から発想を拝借しているだけなので痛くも痒くもない。
余談はさておき、ファイナルクエスト15をポチり次の資料をネットから探索する。いつもの掲示板にアクセスすると、そこではあるゲームが話題になっていた。
「エクステンドVRとな」
最近巷で話題のVRゲームと言う奴だ。なんでもゲームの世界に入り込んで体を動かせる的な代物らしい。『面白いけど最悪死ぬ』と話題になっていたので手を付けてはいなかった。
どういう仕組みで死ぬのか、詳しい事は不明だが、最近ファイナルクエストから着想を得た自動回復魔導があれば保険としては十分だろう。エクステンドVRはネットで落とせるらしいので早速ダウンロードを開始し、HamazonでVRステーションを注文。これで完璧である。その後は戦隊これくしょんのデイリークエストを終わらせて就寝した。
次の日、VRステーションとファイナルクエストが無事に配達された。最初はエクステンドVRから手を付けてみようと思い、機材の開封を行う。
ダンボールを開封し中を覗くとそこにあるのは不思議な形のヘルメット。たったこれだけでゲームの世界に入れるのか。半信半疑でヘルメットを取り出し説明書を読みつつエクステンドVRをインストールする。そしてベッドに入りヘルメットを被る。準備はできた。さて、ゲームスタートだ!
「エ"ク"ス"テ"ン"ド"V"R"へ"よ"う"こ"そ"!」
腐りかけのゾンビのようなうめき声が聞こえたと思った瞬間、気がつくと私はエクステンドVRの世界にいた。
「こ……これは……!?」
それはまるで異次元転移魔導が発動したかの如く。ゲームの世界に入れるとは聞いていたが想像以上の事象だ。
本物の私の身体はベッドで横になっている。そう知識として知ってはいるのだがさすがにこの技術力には驚きを隠せなかった。催眠や幻惑魔導で再現を行うことはできるだろうか?そんな考察をしながらも私はそれからこの世界に没頭した。
ところどころに欠陥も見られるが、聞くところによるとこのゲームは個人が趣味で制作をしているものらしい、完璧を求めるのは少し酷だろう。
私はこの世界の発展のために掲示板を開き、いくつかの欠陥を管理者へ報告した。掲示板にはゲームの新たなバージョンアップ情報も記されているようで、そのログを眺めていると、気になる情報があった。
「ふむ……自身の技術を再現したスキルの作成か」
ゲームの最中に習得した剣術スキルや盾術スキル。これらは魔物と戦う際には必須ともいえるものだった。
私は魔導の道に傾倒していたが故に剣なんてものは触れたことすらなかった。しかし、このスキルというものは末恐ろしい。発動を宣言したと同時に途端に身体が剣を振るにあたって最適な動きを自動的に行うのだ。本当に最適な動きなのかは初心者である私には正確には判断ができないが、それでもズブの素人に為せる動きではなかったのは確かだ。
そして、半ば強制的に行われた最適な動き。それを体感した私はそれから明らかに剣を振るのが上手くなった。ひょろひょろの剣がほんの少しまともに振れるようになった、というだけの事ではあるがこの違いは大きい。これを活用すればある特定の技術の習得を遥かに効率的に行うことができるだろう。そこまで考えて私ははっと気づいた。
プレイヤーの少ない山奥に行き、あたりを見渡す。そして眼前に見ゆる巨大な岩に手をかざし、己の内に潜む魔力に軽く神経を集中させ……
「そいやっ」
掛け声と共に魔力を掌から撃ち出す。放たれた魔力は掌を介して雷へと瞬時に変換され、眼前に放たれる。その瞬間、激しい雷鳴が轟いた。同時に岩は粉々に粉砕され、辺りに破片が飛び散る。その破片を結界によって遮りながらも私は期待に胸を高鳴らせていた。
「ようこそ、山岡道場へ。新たなスキルの習得希望かな?」
道場の師範に声をかけられる。しかし、今回はスキルの習得が目的ではない。
「スキルの作成をしたいのだが」
すると師範は頷き、
「ではこちらへ」
と言って道場の奥に向かって歩き出す。それについていくと師範が開けた扉の中に真っ暗な空間が現れた。真っ暗に見えるのだがそこに入っていく師範は外にいる時と変わらず視認することができる。スキルの作成の際に邪魔なオブジェクトなどを排除した特殊な空間なのだろう。
私もその空間の中に入ると、師範が訪ねてくる。
「スキル名を決めてくれ」
「ライトニングボルト」
本当はライトニングボルトなどという大層な名前は無く、ただの汎用雷撃魔導だ。
「スキルの説明を決めてくれ」
「自身の体内に宿る魔力をゲートにより雷撃へと変換させる」
「では、スキルの記録を行う。何度か動きを再現してみてくれ」
魔導がこのゲーム世界でも正常に発動することは確認済みである。早速雷撃を放とうと思ったが、一つ思いついたことがあった。
「――天空の王に希う……神なる裁きで眼前に見ゆる罪人を殲滅せよ……!ライトニングボルト!」
完全に無意味な詠唱と共に掌から雷撃を真っ暗な空間に撃ち込む。こういったシャレも面白いだろう。この後何度か同じ動きを行うと、正常にスキルの作成が完了した。
問題はここからだ。私の魔力の動き、ゲートの魔力変換をモーションアシスト機能は再現してくれるのか。作成したスキルは私のスキル欄に登録されているが、自分で自分のスキルを使えても意味がない。やはり他のプレイヤーに試してもらうのがいいだろう。
私は技術料として幾ばくかのゲーム内通貨を受け取ると真っ暗な空間から出て道場の外に出る。そして、他のプレイヤーが道場にやってきたのを見計らって、あたかも今来たばかりのように偽装しつつ道場にもう一度入った。
「よっしゃ!俺もスキル作ってもらおうかなっ!」
どうやらそのプレイヤーはスキル作成希望者らしい。さりげなく誘導をする必要がありそうだ。私は師範に話しかけてスキル一覧を見せてもらった。
「あれれーなんだこのスキルーおかしいぞー」
「ん?どうした?」
釣れた。プレイヤーが私の言うスキルが気になったようでスキル一覧を開く。
「ほら見ろよーこのライトニングボルトってスキルーおかしくねー?」
私の完璧な演技にそのプレイヤーは見事に騙されてくれたようだ。
「これ、プレイヤーメイドのスキルなんだな。でもスキルの名前って自由らしいし釣りスキルじゃね?星剣王術とかいう名前の料理スキルもあるらしいぜ」
ぐっ……反論できない。今回のプレイヤーは流して次のプレイヤーを狙うべきか。
「なるほどなーでも気になってきたから覚えてみるわー」
「確かになんだか気になるよな。よし、俺も覚えてみるか!有用なスキルかもしれないしなっ」
なんていい奴なんだ!私は彼がスキルを覚えたのを見て自分もライトニングボルトを覚える振りをして星剣王術を習得し、(料理もしてみたかったのだ)共に訓練場へと向かう。
「よーし、試しに使ってみるか。『ライトニングボルト』」
そのプレイヤーがキーワードを口にしたと同時に掌を前方に向ける。そして、
「天空の王に希う!神なる裁きで眼前に見ゆる罪人を殲滅せよっ!ライトニングボルト!」
――その瞬間、神なる裁き(自称)が訓練場を襲った。
現代魔法について語るスレ part141
411 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
結局ライトニングボルトしか魔法が無いからあれだけど
他にも魔法ってあるんかね?
412 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
ライボルの詠唱は
「天空の王に希う
神なる裁きで眼前に見ゆる罪人を殲滅せよ
ライトニングボルト」
だよな
これ改造してみればいけるんじゃね?
413 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
>>412
「大地の王に希う
神なる裁きで眼前に見ゆる罪人を殲滅せよ
アースクェイク」
とかやってもなんもなかったぞ
414 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
むしろアースクェイクとかいいながらライトニングボルト出てくるからなそういう事すると
わけわからんわ
415 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
もしかしてライボル作った魔術師って厨二病だったんじゃね??
意味もなく詠唱とかしてみたかったんだろw
416 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
確かにそもそも詠唱いらない感あるよな
一応呪文は唱えるけどそれだけじゃなくてなんていうかなんか説明できないけど
へんなことを身体でやってる感覚あるし、そっちだけでも行けるんじゃっていうか
ただ呪文とセットでエクステンドVRで身につけたから呪文なしだとうまくそのへんなのができない
417 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
新たな魔法ですか……面白そうですね
ちょっとリソース割いて研究してみます!
418 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
>>416
へんなことってなんだよwって言いたいけど本当にそういう感覚
何回かVRで再現してないとできないんだよな
ライボルのモーションアシストソースは公開されてるから誰でも見れるけど
俺みたいな素人じゃよくわからん
419 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
既存の法則と乖離しすぎて今の研究者もお手上げらしいね
420 名前:417[sage] 投稿日:20xx/xx/x
試作してみました!
http://ggooolle.drops.jp/brave/anahori.vr
あんまり強いの作るといろいろ危なそうなんでとりあえず穴を掘れる魔法のアシストソースです
私は身体の都合上魔法のエネルギー?みたいなものがないみたいなんで誰か試してみて!
421 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
そんな早く新魔法が作れるわけねーだろ
絶対ウィルスだから気をつけろ
422 名前:名無しさん[sage] 投稿日:20xx/xx/x
拡張子vrのウィルスとか怖すぎ
デスゲームのデータファイルか?
423 名前:417[sage] 投稿日:20xx/xx/x
本当に作ったのに……




