事実無職のジョブマスター④
リュンクの森の初級妖怪、化猫に向けて初級魔術『フレア』を放った後、ツカサは琴花に向かって声を出す。
「琴花! 剣士!」
「了解ニャ」
琴花の手招きと共にツカサのステータス、職業の欄が『術師』から『剣士』に書き換わる。
同時に持っていた杖が消え、代わりに現れた剣をツカサは握りしめる。
怯んでいる化猫の元に走り込み、勢いを止めずにツカサは回転する
「円牙!」
宙を舞った化猫は小さく呻き声を上げて消え、代わりに通貨とアイテムが地面に落ちる。
「慣れてきたみたいだニャ」
琴花がツカサの頭に手を置く。
「まあ……化猫は猫みたいなもんだしな」
「練習はこれくらいでいいニャ、どちらにしてもお前のHPをここらへんの妖怪が削りきれるわけがないニャ」
「そうだな……じゃあ陰陽師にしてくれ」
「なんでニャ?」
「リュンクに行くんだから陰陽師にならないと色々疑われるだろ」
「何か買い物かニャ?」
「え? いや、今日の宿でも探そうかと」
ツカサの言葉に琴花は目を丸くする。
「宿って……村に泊まるのかニャ?」
「俺が陰陽師なら問題はないだろ? ……もしかして村の宿は妖怪禁止なのか?」
琴花は何度も首を横に振った後、丸くした目を輝かせてツカサに詰め寄る。
「宿、行きたいニャ!」
*
「ニャハハハ!」
宿のベッドで飛び跳ねる琴花を見て、ツカサはため息をつく
「あんま騒ぐなよ……壊れるぞ」
「で、これからどうするのかニャ?」
「とりあえず村や町を巡ろうと思う。手探りだが……旅しかないだろう」
「ま、そうかニャー」
琴花は飛び跳ねるのをやめ、猫のように座る。
「ここから近いのは……サバーカだニャ」
「ま、そうなるな。その次はベットだな」
サバーカはゲーム上リュンクの次にある村だ。リュンクは猫の妖怪が多いがサバーカは犬の妖怪が多く生息している。
ゲームではサバーカまでがチュートリアル。その次にあるのが大都市ベットになる。
「ベットは見た事がないニャ」
「ん……ああそうか」
リュンクの森とサバーカの森は繋がっている。森の中は自由に移動できた琴花はサバーカまで行く事が出来たのだ。
「じゃあサバーカまでは案内を頼んでいいな」
「もちろんニャ」
ゲームで慣れているとはいえ、実際に見るのでは全然違う。
「とりあえず……ベットを目指すか」
「了解ニャ」
敬礼をしながら飛び跳ねた琴花の下で、ベッドが悲鳴をあげるように軋んだ。
「……まじで壊すなよ」