事実無職のジョブマスター②
今にも襲いかかりそうな目で睨まれたツカサは自分が異世界の者である事を話した。
琴花は疑わしげにツカサを見ていたが
「ま、色々特殊なんだニャー」
と簡単に納得した。琴花の頭の中では村への興味が勝ったのだ。
村の中に入り、散策をする中でツカサは琴花からこの[Magic specter]の世界の事を聞いた。
傭兵とは[Magic specter]で言うプレイヤーの事で、危険な場所に食材を取りにいったりする、階級に縛られない存在らしい。
因みに傭兵はプレイヤーのように死んでも復活するわけでは無く、[Magic specter]で復活の場所だった教会は信仰目的の物となっている。
[Magic specter]でのサブ職業はステータスの奥底に表示されている物で、複数持つ事も容易であり、制限は無い
ツカサの世界での職業とあまり変わらないようだ。
それでも流石に職業欄に何も無いのは異常であり、前例が無い。
因みに[Magic specter]時代でのツカサの職業は剣士だった。
琴花との話でツカサの職業が無い事やスキルが無い事は同じ原因であると推察された。
「……で、村に来る目的は果たしたけど?」
「そうだニャ、やっぱり落ち着くニャ」
「……落ち着く? お前は村に来るの初めてだろ?」
「まあ、そうなんだけどニャー」
琴花は困ったように苦笑いを浮かべる
「……何かあるのか?」
ツカサは琴花が村に来たがっていた理由も知らない。人間に興味がある、その言葉は嘘では無いだろう。
しかし、その言葉が全てだとはツカサは思っていないのだ
「ま、うちだけが秘密を知っているのも不公平だニャ」
琴花は近くの公園にあったベンチに座った。手招きをされてツカサも座る。
「お前が人間の中で特殊なように、うちもまた妖怪の中では特殊なんだニャ」
(特殊か……それにしてもお前ってのやめないな、こいつ)
「まず簡単に言うと、うちには記憶が無いのニャ」
「記憶喪失か」
「そうニャ、気づいたらあの森にいたニャ」
ステータス画面の事を知っていた事から自分に関連する思い出を忘れるタイプの記憶喪失なのだろう。
周りの妖怪に色々聞き周りながらあの森で何日か過ごした時ニャ、と琴花は口を開く
「なんだか居心地が悪かったのニャ。 森よりもたまに森から見る村や町の景色の方がしっくりくる、そんな感じがしたニャ」
「記憶が無くなる前は式神だったんじゃないか?」
[Magic specter]での職業である陰陽師のスキル(使役)は登録してある式神を呼び出すものである。
式神の種類はレベルによって追加されるスキルやアイテム(巻物)により決定され、レアな巻物は陰陽師の間で高値で取り引きされていた。
式神であったなら、村に興味を持つのも普通の事だ。
「式神……かニャ」
琴花は苦笑いを浮かべる
「今ある記憶にはうちのステータスに式神のマークが付いていた事は無いニャ」
「式神マーク?」
琴花は頷く
「そうニャ、式神となった妖怪側につくのが式神マークニャ」
「ちょっと待て、式神と妖怪は同一なのか?」
[Magic specter]では式神は妖怪とよく似た姿をしていたが妖怪と記述された事は無かった。
「式神は種族じゃ無いニャ、妖怪と人間が契約した証だニャ」
「なら巻物は何なんだ、それともこの世界には巻物何て無いのか?」
「巻物はうちら妖怪にもわからない謎の存在ニャ、巻物から現れる妖怪は最初から式神……わからないニャ」
「そっか……」
まあいいや、とツカサは切り替える。まずは何をするか、だ。
この異世界から帰る方法を探さなければいけない。それには情報収集が必要だろう。
しかし今のツカサで違う街にいけるのか、恐らく無理だろう。
ツカサは琴花を見る。戦い慣れているであろうこいつがいれば……
「なあ琴花」
「何だニャー?」
「お前、これからどうするんだ?」
「記憶は戻らなかったし、うちは森に戻るかニャー」
「この村に留まらないのか?」
ツカサの言葉に琴花は溜息をつく
「妖怪が村にいて平気な訳無いニャ、お前がいてもギリギリニャ」
「ギリギリ?」
「陰陽師で無いお前と共にいるうちは契約妖怪でも無ければ式神でも無いニャ、ただの妖怪ニャ」
人間と心の通じ合う妖怪は少なからず居るが特殊という事だろう。
とりあえず琴花の目的は記憶を取り戻す事、ならば。
ツカサは琴花に言った。
「コンビを組まないか?」