異世界へ②
何かに頬をつつかれて司は目を覚ました。
夏らしい暑さを緩和するように流れる水の音、ざわめいた木々の隙間から光が漏れて司の顔を照らす。
「……ん」
司が起き上がると同時にそばにいた鳥が飛び去った。
(……なんだ?)
感じた音は部屋で感じられるような物では無い。周りには感じた音に合う木々と川。
「森…….か」
口に出して確認して司は気づく。
「森!?」
部屋で寝ていた、いや幽体離脱を体験していたはずだ。何故森に……司はそんな事を自分に問うが答えは得られない。
立ち上がって体を動かす。腰に少し重みを感じた。
「……おいおい」
腰についていたのはシンプルなデザインの鞘。鞘から見えている柄を掴んで引き抜くと予想通り剣が出てきた。こちらもまたシンプルだ。
「……それにしても」
どちらかといえばインドアである司が行った事も無いような森。
しかし、だ。
(何だか見たことがある……)
テレビや雑誌で一度見た、という感じでは無い。何度も見て親しんだような懐かしい感覚。
来たことは無いが幾度と無く見たことある光景だ。
何にせよ喉が乾いた。と司は近くにあった川に近づく。
川は綺麗で底がハッキリ見えている。飲んでも問題は無さそうだ。
両手で川の水を手ですくう。と、その時だった。
司の視界に突然[リュンクの水]という文字が浮かんだ。
「うおっ!」
驚いた拍子に手にあった水が司自身にかかる。
「冷た……」
溜息をつきながら水を拭う。司の手が額の辺りに触れた時、また視界に文字が浮かび上がる。
浮かんだ文字は[Name・ツカサ]
何故自分の名前が……そんな事を考えながら読み進める
Name・ツカサ
level・72
job・?
これが目の前に見える情報。視界の右上にはこれとは別にHPとMPのバーが表示されていた。
「ツカサ……72」
HPとMPの数値も見覚えがある。流石にここまで情報を見せられると嫌でもわかる。
「Magic specter……」
そう、このステータスも森も水も[Magic specter]で見た物だ。
「嘘だろ……」
ツカサは思わず声をこぼす。ツカサの推測が正しければここは[Magic specter]の世界なのだ。
この世界が仮に[Magic specter]だとするとここはリュンクの森という事になるのだろう。
リュンクの森は[Magic specter]で始めて向かうダンジョンで猫系の妖怪が多く出てきていた。
先ほどのリュンクの水は初心者用のMP回復アイテム。店で売っている空き瓶を使えば持ち運びも出来るがそこは初心者アイテム、効果は微々たる物である。
ありえない、普通では考えられない事に巻き込まれたようだが柔軟に対応せざるを得ない。
(とりあえずリュンク村を目指すか……)
そう考えて歩き出したツカサの上、正確には木の上にいた銀髪の少女は少し笑って呟いた。
「人間だ……ニャン」