異世界へ①
頭のすぐ上には天井、そして下には
坂月司自身の身体が見える。
(全く……)
大きく息をすって司は大声で叫ぶ
「どういう事だよ!」
司の声は誰の耳にも届かない。届いたとすれば司と同じ境遇の者だけだろう。
そんな者、居るのかすらわからないが。
幽体離脱。それが司の置かれている状況を表すのに適切な言葉だ。
「……どうしよう」
途方に暮れている司の後ろで古びたパソコンが起動した。
スタート画面やパスワード入力を無視して表示されたのはあるオンラインゲームのオープニング画面。
光に気づいて司は後ろの液晶を見る。
映し出されているのは[Magic specter]という文字と草原をイメージした背景。
「Magic specter……」
出る敵は妖怪で昔の日本がベースながら魔法も普及している世界を舞台としたオンラインゲーム。
確か数年前にサービスを停止した筈、と司は思い出す。
司もまたそのプレイヤーの一人でそこそこのレベルだった。
何故こんな物が、司が液晶を見ながら考えていると液晶の光が突然増す
「眩しっ」
その光は部屋全体を包み込む。光しか見えない中、司は肉体無き身体に異変を感じる
(引っ張られる……!?)
光が消え部屋全体が見えるようになった時。ベッドの上には中身を失った司の身体しか残されていなかった。