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少年よ、街を出よ

 1/少年よ、街を出よ 始


 長い坂道を、自転車で下る。勾配が急だったから、車輪がガタガタと鳴ってうるさい。けど、その音も今は心地良かった。俺は今、世界に反逆しているのだ。のそのそと坂を上り、自宅へと帰っていく人々。その流れに唯一反しているのが、俺だ。


 俺は下っている。下へ、下へと。これほど心地よいことがあるだろうか。


 今ごろ家ではきっと、母さんが大騒ぎしている。「うちの息子がおかしくなった!」とかなんとか喚いていることだろう。小気味いい。そして、それからしばらくしたら、市から配給された、『四〇代専業主婦の為の生活計画』に基づいた、とても健康的で、とても正常な生活を再開することだろう。


 分刻みに刻まれたスケジュール通りに、一日を暮らす。それが今の健全な生活だった。国がこれこれこういう生活を行うべきだという基準を設け、各市町村がそれぞれの風土を鑑みた上でそれに合った模範的生活規格を作り上げる。すべては完璧で正常で健康的だった。この計画が持ち上がったのは二〇年前だったが、その二〇年前と比べると、この国の平均寿命は一〇年も伸びている。その上、犯罪件数も大幅に減ったらしい。この計画がどれだけ人間を正しくし、正常な形を保つかがよく分かるだろう。


 俺は道路脇のガードレールめがけて唾をはいた。


 寿命がのびた? 犯罪が減った?


 そんなもの、糞食らえ。知ったことじゃない。


 胸がむかむかして、自然とペダルにのせた足に力がこもる。どこまでも加速してしまいたかった。そして、どこか知らない所へ行ってしまいたかった。


 少し黄味がかった空を、巨大な旅客機が横切っていく。俺はまた唾を吐いた。あの旅客機は、どうせ「計画された」旅行から帰ってきたんだろう。


計画。


    計画。


計画。


どこもかしこも計画なしには存在していない。


睡眠も、


 食事も、


  性交も、


   旅行も、


    仕事も、


      なにもかも。


 長い坂が終わると、さっそく豆腐みたいな形の工場群が見えてきた。労働を終えた人々が規則正しく列を成して歩いている。こちらには、何の関心も示していない。彼らの頭にあるのは、どれだけ正確に生活をこなすか、ということだけなのだろう。その予定の中に、俺に一瞥をくれるということは含まれていないのだ。

 それにしても、なにを作っている工場なのだろう。工場で働いている父さんに聞いても、なにも教えてはくれなかった。親が子供に教えるべき条項に、それは含まれていないからだ。

 興味を引かれ、自転車から降りる。工場から吐き出されるようにぞろぞろと歩く労働者たちとまったく反対に、俺は自転車を引きながら、工場へ向かって歩いた。


 真っ白で、四角い外観をもつ工場は、中も同様に真っ白で、清潔感に満ちあふれていた。

 中の広さは市営の体育館(計画的運動をするための施設だ)の三倍くらいはある。そこに所狭しと、奇妙な形をした機械が並んでいた。機械同士はベルトコンベアで繋がれていて、そのコンベアを挟むようにして労働者たちは働いているのだった。ちょうど交代したばかりの男たちが、手前の機械から運ばれてきた部品に手を加え、奥の機械へと流している。ここでも、闖入者であるはずの俺に目を向けるものはいなかった。そもそも、場内に侵入するときにでも、警報か何か鳴ってもいいものだと思うのだが、それもない。なんの秘匿もなく、すべてが曝け出されている。

 手近なコンベアの方に近づいてみるが、そこは上流の方らしく、細々とした部品が俎上に乗せられているだけだった。部品は、一定の速度で下流の方へと進んでいく。その途中で、ミキサーのような機械を通ると、何やら肋骨のような形状の金属製品に姿を変えた。

 そこから更に辿って行くと、他のコンベアの流れと合流し、肋骨のようなものを含め、いくつかの金属製品が、まるでオブジェのように並んでいた。いくつかのベルトで出来た河川が合流した、その巨大な流れは、長方形のトンネルに飲み込まれていった。


 ふいに、背中の辺りを悪寒が走る。


 気持ちが悪い。


 工場を覆う雰囲気に酔ったに違いない。だって、すべてが規則的に流れ過ぎていたから。機械から発せられる音は終始同じ調子だし、働いている労働者は機械と同じくらい完璧な反復動作をしていたのだ。あまりにも効率的過ぎて、極端に不自然だ。そりゃ気分くらい悪くなる。


 俺は息を深く吸って呼吸を整えながら、長方形のトンネルの向こうはどうなっているのだろうと考えた。同時に、上流の方で元となる部品を見ていたから、もうここを出てしまおうかとも思った。長居していても、いいことはない。労働者たちは相変わらず無関心だが、いつ俺に関心を示すかも分からなかった。市の矯正課や警察と関わるのは避けたい。


 ――しかし結局、興味には逆らえなかった。


 長方形のトンネルの向こう。唸るような排気音の先で、俺は歩みを止めた。


 


 一瞬、呼吸も止まった。




 長方形のトンネルの向こう。唸るような排気音の先。





 その先。






 その先に広がっていたのは、





 いたのは、





1/少年よ、街へ出よ 終

習作。てきとうにショートプロットを考えて書きました。


おわり

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