7.序曲 ―Prelude―
古い柱時計が、重い鐘の音を響かせた。ひび割れて破片の落ちる冷たいコンクリートの壁に、その音は反響して広がっていく。辺りには噎せ返るような血の匂い。終わりかける夏の暑さがそれを助長し、部屋の中は生々しい空気で満たされていた。
窓もなく、月の光すら入らないこの薄暗い空間で、人影がゆらりと揺れた。天井にぶら下がった裸電球がチカチカと最期の灯を燃やし、その人影を照らし出す。透けるような銀色の髪の一部が、赤黒く染まっていた。おそらく少年だろうか。彼の周りには折り重なる八つの屍。一つはまだ新しく、彼の髪にべったり付着するものと同じ液体がその死体から溢れ続けていた。
少年は己の掌を見つめ、小刻みに震えていた。時折嗚咽のような声も聞こえる。恐怖とも自責ともつかない涙がとめどなく零れ落ち、彼の両手を濡らしていく。そして掌の血を溶かし、桃色の雫となって彼の足元に横たわる骸を濡らした。
その死体は、少年と同じ透けるような銀の髪だった。その髪は自身から流れる血液に浸かり、真っ赤に染め上げられていた。光をなくしてどろりと濁った双眸が、ただじっと少年を見つめていた。
視線がぶつかった。少年の嗚咽が大きくなる。掻き毟るように両手で頭を抱え、少年は弾けるように天を仰ぐ。
灰色の天井。
錆の匂い。
上がる気温。
流れる汗。
慟哭。