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「……なに、これ」
「それ、瞳子ちゃんの衣装」
衣装係の裕子ちゃんに渡されたブツを見て、しばし黙り込む。
確かに私は、猫娘の役に決まっていたけれど。
「かわいいでしょ~。結構考えたのよ、それらしくするの」
ダメ押しのように言われて、脱力。
「うちのお化け屋敷、正統派じゃなかったの?」
衣装として渡されたのは、白い着物。それはまだいい。でも、この着物の上に乗っているカチューシャについた猫耳と、六本ある十センチほどの黒いモールはどういうわけ?
……これ、つけるの?
「瞳子ちゃん、かわいいと思うよ、そういうの。あ、その着物、演劇部から借りてきたから大丈夫だと思うけれど、長け、合わせてみてね。美樹ちゃんも」
なんだかなあ。
LHRの時間、私達は文化祭の準備をしていた。うちのクラスは一般公開の2日間、お化け屋敷をやることになっている。部屋の中を暗くして、お化けの仮装をしたみんながお客を驚かすというお約束のアレで、結構本格的なもの……に、なるはずだったんだけど、この耳って……
教室の後ろには、ただいま製作中の卒塔婆や墓石がごろごろしていて、何も知らずに顔を出した他のクラスの生徒をおののかせている。
あの大道具の中では、浮いてしまうんではないだろうか、これ。
「裕子ちゃんのことだから、本気でかわいいと思って用意したんだろうなー……悪いよね、嫌がったら」
「かといって、このまま許容するのも……」
「大丈夫、きっと美樹には似合うよ」
「あんたもやるのよ?」
ねめつけるような視線を受けて、さりげなく衣装から目をそらす。
「高森は、お化けでいいのか?」
そらした視線の先に、委員長が衣装袋をあさっているのが見えた。高森君が、他の男子と一緒にそれをのぞきこんでいる。
「やりたい! なにやっていい?」
その姿に思わず笑ってしまう。なんだか子供っぽいその姿が、やけにかわいらしい。
「そーだなー……」
「一つ目小僧は?」
平林君が、ハゲヅラを持って言った。
「いやー! 高森君にそんなのかぶせないで!」
川崎さんが、悲鳴のような声をあげる。
「いーじゃん、美形のハゲ。似合うぞー」
げらげらと笑う男子たちに、女子から大ブーイングがおこる。
「高森は、なんか希望ある?」
「別に僕、これでもいいけど」
「もっと似合うの探すから! ちょっと待ってて!」
平林君から渡されたヅラをかぶろうとした高森君の手から、原ちゃんがすばやくそれを奪い取った。グッジョブ、原ちゃん。
「あ、ねえ、これいいんじゃない?」
裕子ちゃんが、黒いマントを引っ張り出す。
「吸血鬼。本当は中川君がやるはずだったけど、今日、中川君休みだし」
「信さんなら、吸血鬼よりフランケンシュタインだよな」
藤井君の言葉に、その場にいたみんなが一斉にうなずいた。
お化け役になった人は、基本的には自主申告で何をやるか決めていた。なので、柔道部で鍛えたがっつり体型の中川君が吸血鬼をやりたいと言った時も、特に誰も反対はしなかった。
でも、高森君と中川君のどちらが吸血鬼に似合うかと聞かれれば、それは言わずもがな、だ。
「こっちの黒のスーツ、結構細身だから中川君に入るか心配だったのよね。高森君なら、ちょうどいいんじゃないかな」
同じ衣装係の円城寺さんが、マントとおそろいのスーツを袋から出す。そろっているところを見ると、演劇部の衣装らしい。
円城寺さんは演劇部の現役部長で、うちのクラスは衣装の面でかなり融通をきかせてもらっている。それもあって、お化け屋敷をやろうってことになったんだけど。
先にもらったマントを羽織って、高森君がくるりと回ってみせた。
「似合う?」




