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「早川さん、覚えているかな。二年になってすぐの頃、俺と初めて話したときのこと」

「二年になって……すぐ?」


 真崎君のこと顔だけは知っていたけれど、初めて話をしたのは三年の春、委員会で一緒になってからだと思っていた。


「うん、二年の四月。その頃、俺少し、スランプ……っていうのかな。そんな風になっててね。よく放課後のクラブさぼって、でも、まっすぐ家にも帰りたくなくて、それで図書館に入り浸ってた。ある日、たまたま手にした写真集が破れているのに気付いて、図書委員の人に届けたんだ。その時カウンターにいたのが、早川さん」

 二年の四月。破れた写真集……。あ。

「それ……もしかして、星の写真集?」

「そう。覚えてない?」

「覚えてる……」

「あの時、破れた本を見て、早川さん泣いたんだよね」

 微かに笑う気配がしたけれど、それを思い出した私は顔から火が出るかと思った。


 あの時の……!


 私は小さいころから本が好きで、暇さえあれば図書館で本を読んでいるような子だった。今も、将来の夢は図書館司書だ。

 あの写真集は、そんな私が、図書購入の際に初めて私の意見を取り入れてもらって買ってもらった本だった。ラベルも自分で貼らせてもらって書架に入れたっていう思い入れのある本だったから、破れてしまったそれを見てかなりへこんだ。しかも、ちょうどあの日だったんだよね。有田君が二股かけてたことを知ったのが。

 でも、まさか泣くなんて、自分でも思わなかった。


「あ、あの時……私が本を修理する間、ずっと見てたの、あれ、真崎君だったの?!」

「そう。思い出してくれた?」

 絶句する。

 よりによって、あんなひどいところを……

「本の修繕をしながら、ずっとぽろぽろと涙をこぼしていたでしょ。なんて言うか……見ていて、いっそ気持ちいいほどの泣きっぷりだったよ、あれは」

「は、恥ずかしい……」

 思わず空いてた手で顔を覆う。頬が熱い。

「あんまり見ているのも悪いかな、とは思ったんだけど、つい、目が離せなくて」

「そうなの? よっぽどあの写真集、借りていくの楽しみに待ってるんだと思ってた」

 だって、人が泣いてるってのに、ずっと目の前で修理するの見ていたんだもの。途中で裏に入るのもなんとなく気まずかったし、早くしろよとか思ってるかもしれないから急いで修理しなきゃってあせってたし、あせりに比例して涙は止まらなくなるし。

「修理し終えて手続きをしてくれて、早川さんは写真集を渡してくれた。『お待たせしました。はい、どうぞ』って。その時初めて俺を見上げて……笑ったんだ」

 半分は、やけになってたんだけど。あとでその話を聞かせた美樹が、少しは気をきかせよ、そいつ、とか言ってたことは内緒にしておこう。そっか。あれ、真崎君だったのか。涙目だったから、相手の顔なんてよく見えてなかった。


「それがきっかけで、早川さんのこと気になるようになったんだ」


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