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次の日、私は自分の家にいた。文化祭は何事もなかったように続けられている。吉澤先生に朝連絡をしたときには、美樹も休みだと教えられた。先生ののんきな言葉に、ああ、またなんだ、と思った。
きっと、私が見たあの女性のように、美樹の死もなかったことにされるんだ。
「……あった」
朝からずっと探していた目当てのものを見つけて、震える手でそれを取る。
一晩、ずっと考えていた。馬鹿なことかもしれない。でも、結局、それしか考えつかなかった。
警察が、何もしてくれないなら。真犯人を知っているのが、私だけなら。
ねえ、美樹。
私に、力を貸して。
☆
部屋に戻ると、机の上の携帯が震えていた。表示された名前を見て、思わず手が止まる。
ちかちかと光りながら、それはなかなか鳴りやまなかった。私はゆっくりと手に取ると、着信ボタンを押した。
「もしもし」
「瞳子?」
向こうからは、陽気なBGMと屈託のない明るい声が聞こえた。
「やあ、今どこ? 三組行ったら今日は休みだって聞いたけど。中嶋さんも休みなんだって? 二人で……」
「真崎君」
静かに、私は告げた。
「ごめんなさい」
息をのむような気配がして、真崎君が沈黙する。微かな雑音がしてBGMが小さくなった。移動したのかな。
さっきとは違う、落ち着いた声が聞こえた。
「それは……俺の気持ちに対する、答え?」
「……ごめんなさい。真崎君と一緒にいられて、楽しかった。友達としては大好きだよ。でも……」
「そっか」
ため息の中につぶやきが聞こえた。
「あいつだろ」
「あいつって……」
「高森」
突然出された名前に、どきんと胸がなる。
「瞳子、バスケの試合やってる時、あいつのことしか見てなかった」
「そんなこと」
「あるんだよ」
めずらしくいらだったような声で、強引に私の言葉をさえぎる。わずかに、沈黙が落ちた。
「だって俺は」
さっきよりもさらに小さな声がした。
「あいつを見ているお前を、ずっと見ていたんだから」
何も答えを返すことができずに、私は口を閉ざす。
「おとといああは言ったけどさ、これでも心中穏やかじゃなかったんだぜ? 言ったことに嘘はないよ。けど、実際さらっていかれると……やっぱきっついものがあるなあ」
「ご……ごめんなさい」
言葉がつまった。頬を、涙が伝う。
「泣くなよ」
困ったような声は、それでも優しかった。
「俺はさ、本当に、瞳子の……早川さんのこと好きだった。それだけは、覚えておいて」
若木さんの言葉を思い出して、涙をぬぐう。
「でも、私、真崎君に好きになってもらう資格なんてない」
「はい? 誰かを好きになるのもなられるのも、資格なんていらないと思うけど」
「でも……」
「俺は、早川さんを一年以上も、見てきたんだ」
「……え?」
一年以上?




