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涙をぬぐって顔をあげると、笑いをひそめたまじめな顔の高森君と目が合った。ボタンを留めないままシャツの前を合わせて、ふらりと立ち上がる。
「つっ……」
まだどこかを痛めているのか、高森君は少し顔をしかめる。倒れている美樹の傍らに膝をついた。
「ごめんね……」
呟いたのは、私になのか、それとも美樹になのか。
「兄、なんだ。双子の」
ぽつりと聞こえた声に、とっさには何のことかわからなかった。
双子……同じ顔の。
「さっきの、あの人のこと?」
「うん。最近この街に流れていた例の噂、あれは、本当にあったこと。彼の、仕業だ。宇宙人のせいになっているのには驚いた」
言葉をきると、大きく息をつく。
「最初はフランスだった。彼の移動にともなって、本当はあちこちで事件は起きていたんだ。僕はそれを追ってきた。一族の力で、事件そのものをもみ消しながら、ね。結局、人の口に戸は立てられなかったようだけど」
「高森君って……吸血鬼、なの?」
やっぱり、口に出すのは少しだけ戸惑う。ばかげてる、と思う自分が、心の中にいるから。
そんな私を振り返って、高森君は少しだけ笑みを作る。
「確かに僕らは吸血鬼って呼ばれることもあるけれど、吸血鬼なんて、それほど珍しいものでもないんだよ? 多分、君の思っているような吸血鬼とはちょっと違うだろうから、あちこちにいても気付かないだけ。日の光を浴びても灰にはならないし、こうもりにも変身できないからね。まあ、妙な力はいろいろと持ってるけど。僕らは、おそらく生き物としての種類が違うんだ。人間と比べるだけ無駄だよ」
そこまで話すと、疲れたように息を吐く。
「もう少し、話しててもいい?」
そう言うと、私の答えを待たずに、そのままその場に足を投げ出してぺたりと座り込んでしまった。その姿は、やっぱりまだ辛そうだ。
「自分にない力を目の当たりにすると、たいていの人間は驚いて、次に恐怖を抱くんだ。僕らの長寿や異常な回復力は、普通の人にはあり得ないものだからね。そして、一度ばれちゃうと、吸血鬼退治を名乗る連中にえんえんと追っかけられることになる」
黙ったまま聞いている私を見て、自嘲するように笑う。
「急に信じろって言っても無理な話だよね……でも、これが僕らの現実。ただ君たちが知らないだけ」
目の前にいるこの人は、違う世界の人。
「兄だって……悠理だって、もとは穏やかで優しい性格の持ち主だった。何年か前、悠理の事を嗅ぎつけた人間たちに、銀の弾丸を打ち込まれるまではね。どうやらその弾丸は、まだ悠理の脳に埋まったままらしい。それが吸血の本能を過剰に刺激して、あんなことに……昔からとぼけたやつだったけど、ここまで我を忘れるとは、とことん間抜けなやつだよ」
高森君の顔がゆがむ。笑おうとして失敗したみたいに。
「僕は、血を吸うことをやめられなくなってしまった悠理を……止めるために、彼を追ってここへ来た」
「その怪我は……」
「あいつ、久しぶりの対面だってのに、容赦ないんだよね。けど、僕は……」
そっと高森君は、横たわる美樹の額にかかる髪をはらった。
「もう、ためらわない」
それは、多分美樹への誓い。




