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「亜矢ちゃん……なに? その格好」

 目に入ってきたありえない光景に、私は図書館の扉を開けたまま立ちつくしてしまった。

 私をみつけた亜矢ちゃんが、くるりと回って見せる。

「どうどう? かわいいでしょ。似合うー?」

「……なんでそんなの着てるの? っていうか、どっから持ってきたの? その巫女さんの衣装」

 カウンターの中はとんでもないことになっていた。


 緋袴をはいた亜矢ちゃんに、武藤君と小林さんはトラとウサギの着ぐるみを手にしている。壁にはセーラー服がハンガーにかけてあり……

 視線を移せば、テーブルの上にはどっさりと布の山ができていて、魔女の帽子らしいものやメイドさんやビラビラのプリンセスドレスなんかがのっかっている。


「とこちゃん、どれ着る?」

「まさか……これでしおり配布やる気?」

「だって、普通に配るよりこっちの方が目立つって……、とこちゃん、今頃何言ってるの?」

「いつ、そんな話になったのよ?!」

「こないだ……あ、そっか。とこちゃん、いなかったわ。ほら、先週、真崎君と二人で先に帰っちゃった日があったでしょ」

 亜矢ちゃんの話によると、あの日、しおり配布の方法についてさらに熱い議論が交わされたという……

 議論して……こっちの方向に走っちゃったんだー!


「……で、これはもう決定なのね。今更私が文句言ってもどうしようもないのね?」

 無駄と思いつつ確認する震えた私の声とは対照的に、亜矢ちゃんの声はあくまで明るい。

「ぴーんぽーん。演劇部の衣装借りたりとか、あと私物とか。さあ、どれがいい?」

 昨日、真崎君が勇姿がどうのと言ってたのって、コレかー。知ってたんなら教えてよー。ああでも、まさか副委員長が知らないと思わなかったんだろうなあ、きっと。……なんで知ってたんだろう、真崎君。

「あ、そのナースはだめだよ。渡辺君が着るって言ってた」

 渡辺君て……ご丁寧に白いストッキングまでついてるんですけど。

「ああ、もう時間だ。とこちゃん、これにしよう? 早く着替えて!」

「ええー? これ?」


   ☆


「いらっしゃいませー」

 昇降口には、普段そこには見られないような老若男女が行き来していた。しおり配布は、ここで来場者に配ることになっている。

「どうぞお持ちください」

「これは?」

 入り口から入ってきた、どうも生徒の父兄らしい年配の夫婦にしおりを渡す。私たちを見た二人の目が、そろって丸くなっていたのは気づかないふりで。

「図書委員作成のしおりです。本の紹介を兼ねておりますので、興味をお持ちになりましたら、その本を読んでみてください」

「まあ……図書委員なの。ありがとう。あら、これ知っているわ。太宰治ね」

「はい。ただいま図書館の方では古書店も開催中です。ぜひお立ち寄りください♪」

 受付でもらった文化祭のパンフレットを一緒に手に取ると、夫婦は仲良く校舎に入っていった。


「はー」

「大分減ったねー。とこちゃん、そんなに疲れた?」

 オプションとして持っていた玉ぐしをじゃかじゃかと振りながら、亜矢ちゃんが声をかけてきた。

「主に精神的に。……今のご夫婦も、入ってきた瞬間固まってたよ?」

「いーじゃん、その方が効果あって。それに、とこちゃんの髪、すごいその衣装に合ってるよ」

 それっぽくするために、図書館にあった和紙で長い髪を一括りにしばってみたのだ。

「まあ……人目はひくよね」

 廊下を歩いていく生徒はおろか、看板を持った仮面ライダーやタコの宇宙人なんかまで、わざわざ振り向いて見ていく。緋袴の巫女さんが二人もそろっていたら、やっぱり目立つんだろうなあ。

 いろいろ変なのが歩いているから平気かと思ったけど、やっぱり視線は感じる。なるべく背後は気にしないようにして。

 あと少しで当番の時間、終了だ。もう少しがんばろう。

 と、健気な決心をしたとき。


「早川さん、お疲れ様」

 背後から涼しげな声がかかる。

 振り向くとそこにいたのはタキシードを着た吸血鬼。


 うわー、ホントに来た。

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