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「うん。高森君もお疲れ様。すごい人気だったね」

「人気っていうのかな…………あっつー」

「じゃ、あたし行くから、高森君ここ座りなよ」

 美咲が持っていたコーヒーを一気に喉に流し込むと、立ち上がった。

「ありがと、川口さん。がんばってねー」

「はーい」

 高森君におちゃめな投げキッスをして、暗幕の向こうに消えていく。

「やっぱり、男の人ってああいうのがいいのかなあ」

「ん?」

 ぼそりと呟いた一言に、高森君が反応する。

「なっ、なんでもない! 飲み物あるよ。なにがいい?」

 私は、用意された紙コップを取りながら聞いた。

「麦茶がいいな。冷たいのある?」

「おっけー」

 私の分と高森君の分、二人分のお茶をクーラーボックスのボトルからついで私も座る。


「ありがと。結構人、入るんだね」

「きっと、お目当てがねー」

 お茶を飲みながら高森君を見ると、椅子に長々と伸びて首の蝶タイを緩めていた。あの衣装は確かに暑そうだ。

「お目当て?」

「運動神経抜群の、格好いい吸血鬼」

 驚いたようにこっちを向いたところを見ると、自覚はなかったらしい。

 昨日のバスケで高森君の株が一気に上昇した。噂が噂を呼んで(というより、どうもお化け屋敷の宣伝のために意図的に噂が流された節がある)、一目高森君の姿を見ようとする生徒達でお化け屋敷は大盛況だ。

「僕?」

「高森君、今や学校中の有名人だよ。昨日の試合、すごかったから」

 結局、続行された試合では、うちのクラスは負けちゃったけど。

「そっかあ。やけにみんな楽しそうだから、よっぽどお化け屋敷って楽しいイベントなのかと思ってた」

 妙に感心したように呟く。でも、格好いい云々のくだりは特に否定する気はなさそうだった。

 お茶を飲むためにあげた腕を見て、思い出す。正確には、腕時計を。

「あ、行かなきゃ。私、これで抜けるね」

 言いながら、女子更衣室用として用意された暗幕の中に入って着物の帯をといていく。


 うわー、帯の下、汗かいたなあ。

 着ていた着物をハンガーにかけて、制服のブラウスに腕を通す。さらりとした感触が、汗ばんだ肌に気持ちいい。

「どこ行くの?」

 ずっとこっちを見ていたらしい高森君が、暗幕から出てきた私に聞いた。黒尽くめの衣装で机に頬杖ついている姿が、やけに様になっている。

「図書委員の当番。これから昇降口でしおり配るのよ。……なにか楽しいことあった?」

 もともと愛想のいい人ではあるけれど、さっきより笑顔が3割増しになってる。

「帯のほどける衣擦れの音って、そそられるよね」

 どさ。

 思わず持っていたバッグを落としてしまった。

 固まる私にかまわず、高森君は、残りのお茶を一気に飲み干した。

「んじゃ、僕も、行こかな。そおゆうことなら、サービスいたしましょ」

 そう言ってうきうきと立ち上がる。

 さっきは、ぐったりして暗幕からでてきたくせに。

「すけこまし」

「何か言った?」

 にっこりと振り向く。うわ。ほがらかな笑顔が怖い。

「いえ何も。いってらっしゃい」

「はい、早川さんもいってらっしゃい。気をつけて。あとで迎えにいくよ。昇降口、だね?」

「はい?」

 言われて思い出した。

「デートしてくれるんでしょ?」

 いたずらっぽく、というよりは、意地悪な笑顔そのもので言った。

「あれ、本気だったの……」

「もちろんだよ。あ、それと」

 暗幕に入りかけて、振り向いた。

「僕は別に、どっちでもいいけどね」

 ウィンクしながらそう言って私の胸の辺りを指差すと、優雅な動作で暗幕の向こうに消えていった。


 ぐっ……。さっきの台詞、やっぱり聞こえてたんじゃない。

 巨乳のメデューサと比べてしまった自分の胸を眺めおろす。


 いいのっ。まだまだ成長期なんだからっ!


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