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「失礼しまーす」
たっぷり3分ほど迷ってから、保健室のドアをあけた。
入り口から中をのぞくと、ちょうど真崎君が腕に包帯を巻かれているところだった。
「宮林君は?」
「シップだけして、さっき三組の連中が連れてった。調理室で氷もらって冷やすってさ」
「腕、大丈夫?」
「男の子にとっちゃ、これくらい勲章よね?」
救護の先生は包帯を巻き終えてしまうと、ぽんとそこを叩く。
「ぐっ……!」
「はい、おしまい。利用ノート書いたら、戻っていいわよ。私も本部の救護所へ戻るから、急に気持ち悪くなったり頭痛が続いたりするようなら、そっちにいらっしゃい」
言いながら、ちょっと涙目になった真崎君に保健室の利用ノートを渡して立ち上がる。
「せんせえ……痛いです……」
「男の子でしょ、我慢なさい。あとは、かわいい彼女ちゃんに癒してもらえばいいわ。あ、ベッドは病人用だから、使用禁止ね」
いたずらっぽくウィンクしながらそう言い残して、体育館へと戻っていった。
「ベッ……」
頬が熱くなって、言葉につまる。何か言い返す暇もなかった。
保健室ってろくに利用したことなかったから知らなかったけど、擁護の先生ってあんな人だったのか。
私は、あわてて別の話題を探す。
「え……と、高森君は?」
「そっちで寝てるよ」
言われて、カーテンを引いてあるベッドのひとつをのぞきこむ。
そこには白い顔をした高森君が、静かに眠っていた。穏やかなその顔を見て、ほっと胸をなでおろす。
よかった……
カーテンを戻して、今まで擁護の先生の座っていた椅子に座る。
「大丈夫かな?」
「運ばれているときに、すぐ目を覚ましたらしい。脳震盪も起こしてないみたいだし、大丈夫そうだよ? しばらく安静にしてて、って先生に言われて横になってるだけ」
「真崎君も頭打ったって言ってなかった?」
「少し、ね。俺にもでっかいたんこぶ、できてたよ。でも、高森がかばってくれたから」
ボールペンを取り上げたまま、真崎君が考え込む。
「しかし、よくあの状況で俺たちと壁の間に入れたよな。すごい反射神経だ。……認めるのは悔しいけど、あのまま試合続けていたら、俺、多分負けてたな」
「じゃあ、僕の勝ちってことで」
ふいに、カーテンの向こうから声がする。
「高森君?」
「ん……おはよ」
のぞいてみると、高森君が大きく伸びをしたところだった。
「ごめんね。うるさかった?」
「いや。よく寝た。最近寝不足だったから、ちょうどよかったよ」
「吐き気とか頭痛とか、ないか?」
「ないよ。……体はどこも、悪くない」
言いながら、揃えて置いてあった靴を履き始めた。
「高森」
真崎君が、立ち上がる。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
靴紐を結んでいた高森君が、一瞬だけちらりと視線を真崎君に向ける。何か言うかと思ったけど、そのまままた視線をさげてしまった。
「まだ、寝てなくていいの?」
「平気。と、いうわけで」
立ち上がった高森君は、にっこりと私に向かって。
「明日、僕とデートしてね」
「は?」
思わず、絶句してしまう。それを聞いて真崎君が吹き出した。
「ああ、そっか。俺の負け、だから、か」
「えええ?」




