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見ていた観客から、悲鳴が上がった。
あのままだと、壁にぶつかる!
硬直して動けなくなった私の目に、壁と二人の間にもうひとつ影がすばやく入り込むのが映って、次の瞬間には何かがぶつかるどおんというものすごい音が聞こえた。
歓声ではない悲鳴が体育館中から響く。
あれは……!
あわててゴール下に走る。
「っつー……大丈夫、宮?」
後頭部を押さえながら体を起こした真崎君が、宮林君に聞いた。
「おう……ごめん、真崎。足、もつれちまった……」
言いながら右足を押さえて呻いた。どうやらひねったらしい。そして、もう一人……
「高森君!」
「え?」
私の声に二人が視線を移した。真崎君と壁の間に、もう一人小柄な影を見つけてぎょっとする。
「悠希?! おま……なんで?!」
「高森……?」
倒れた高森君は、ぐたりと寝転んだまま動かない。
「高森君!」
「動かすな!」
触ろうとした私に、真崎君があわてて怒鳴った。
「頭を打ったかもしれない。うかつに動かさない方がいい」
真崎君が手を添えて、高森君をそっとあおむけに寝かせた。高森君は目を閉じたままだ。そこへ、救護の先生がやってきた。
「めだった怪我はないわね……あら、でっかいたんこぶ。単なる脳震盪だといいんだけど」
一通り様子を確認すると、担架で保健室に運ぶように指示を出した。
「宮林君は捻挫ね。それと、真崎君も頭を打ってるようだから、あとは休んでいた方がいいわ。私、保健室行くから手当はそっちでしましょう。はい、二人とも保健室へ行った、行った」
そう言うと、高森君につきそって体育館を出て行った。
「真崎君も、大丈夫?」
のぞきこむと、真崎君のけがは右腕の外側の部分、思いっきりすりむいて血がにじんでいた。
「あー、これくらいなら平気。表面だけだし」
ぺろりと傷をなめると、すりむいた部分にはじわじわと血がわいてくる。それを見て真崎君は眉をしかめた。
「痛そう……」
おろおろしながら見る私に、にこっと微笑む。
「たいしたことないよ。とりあえず、保健室行くか。宮、つかまれ」
「ごめん、真崎」
ひょっこりと立ち上がった宮林君に肩を貸して、真崎君はその肩越しに私を振り返った。
「じゃ、ちょっと行って来る。せっかく、瞳子にいいとこ見せようと思ったのに、残念」
「ううん。真崎君がバスケしてるとこ初めて見たけど……すごく、格好よかった」
それを聞いて真崎君が、微妙な顔になった。でも次の瞬間には、にやっと笑って。
「ありがと。惚れ直した?」
「え……あの、まあ……」
「遠慮なく、好きって言ってくれていいよ。ほらほら」
「な! ……こんなとこで……」
「なあ……俺、もしかしてお邪魔?」
間に挟まれた宮林君が気まずそうにいった。
「あ、ううん! ごめんねっ。ほらっ、早くいかないと!」
あわてて言って、保健室に向かう二人に道をあける。
「どうだった? 真崎君」
自分のクラスのところに戻ると、心配そうに美樹が聞いた。
「宮林君と保健室行くって。怪我は痛そうだったけど、頭を打ったらしくって、そっちの方が心配」
「一緒に行かなくていいの? 保健室」
「私? なんで?」
美樹が、はーっとため息をついた。
「なんでじゃなくて、あんた彼女でしょ?」
「ま……まだ、彼女じゃないもん」
「なんでもいいから、さっさと行って来い!」
ぐいぐいと背中を押されたその時、ホイッスルが鳴った。
残りの後半戦が始まった。




