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昇降口で件のノートを渡すと、すごい勢いで美樹は走って消えた。私はそのまま、図書館へと足を向ける。
私が副委員長をつとめる図書委員会は、文化祭で毎年古書店を開いている。図書館で扱って古くなった雑誌や書籍などの販売をして、新刊購入や備品の資金にするのだ。
『開館中』の札のかかる入り口のドアを開けると、からん、とドアにかけてあるベルが小さく音をたてた。
「あ、おはよ。とこちゃん」
音に気づいてカウンターの中から、もう一人の副委員長である亜矢ちゃんが顔を出す。私は、さりげなく館内を見回した。
「おはよ。亜矢ちゃん一人?」
「うん、まだね」
その答えにほっとして、私もカウンターの中に入った。
入り口からすぐ左にある委員会室は、館内との間にある出窓がそのまま貸出・返却業務を行うカウンターになっている。中は四畳半ほどの部屋で、真ん中に大きな机が一つ置いてある。壁には様々な資料が入っている棚や作業用の道具が置いてあったりするので、結構せまい。図書委員はこの部屋で作業をしたり、館内で唯一飲食禁止ではないので当番がここでお昼を食べたりするのだ。
「これ、いくつか見本作ってみたの。どうかな?」
私は、持ってきたしおりをかばんから取り出す。
「これ? へー、いーじゃん」
「ありがと。百も作ればどうかな、と思って」
「そうだね、まだ一週間あるし、もうちょっといけるんじゃないかな。これ、ここに置いて見本にしてもらおう」
さりげなく仕事を始めようとすると、亜矢ちゃんがずばりと聞いてきた。
「ねえねえ、昨日あれからどうなったの?」
う。
「あれからって……別に、どうも」
「電話とかは?」
「携帯の番号とかメアドとか知らないし……」
「なんで聞いとかないのよ。で、どうするの?」
めがねの奥の目をいっぱいに開いて、亜矢ちゃんがせまってくる。
「どうするって……あ、ほら、お客さん」
書籍を持った生徒がやってきたので、亜矢ちゃんは貸出手続きをするためにスキャナーを手にカウンターに座った。その隙に、私は返却棚にあった数冊の本を手に取ると、それぞれの書架に戻すために委員会室を出る。
居づらい……。仕事が終わったら、とっとと教室に戻ろう。
☆
そそくさと委員会の仕事をしてから教室に戻ると、どういうわけか美樹は私の席に座ってノートを写していた。それはともかく、同じノートを美樹と額を突き合わせて写しているのがもう一人。
「藤井君?」
「うっす、早川」
「なんであんたまで写してるのよ」
「大丈夫。中嶋には許可とってあるから」
「それ、私のノート」
「細かいこと気にすんなよ」
「藤井、また瞳子のノート写しているの?」
「あ、おはよ、美咲」
「おはよ」
登校してきた派手な美女が、面白そうにその姿に目を走らせる。
「美樹も、か。それ、数学の課題でしょ」
「私は特別! 昨日はちょっと……」
「それ、今月に入って何回目の特別?」
美樹は、含み笑いをした美咲を下からにらむけれど、結局何にも言わずに頬を膨らませただけだった。
膨らんだ頬をつつこうと指を伸ばした私の耳に、がたごとと妙な音が聞こえて後ろを振り向く。と、委員長が一組の机を教室に運び入れていた。
「委員長? なにそれ?」
平林君が、自分の後ろに置かれた机を見て聞いた。
「転校生だって。うちのクラスに一人入るらしいよ」




