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 みんなの声と、道具を出す音で急に教室はざわざわし始めた。

「瞳子……」

「今日も、大道具の手伝いかな? こないだのちょうちん、続きやろうか」

 私のとこへやってきた美樹が何か言う前に、教室の後ろへと向かう。美樹は肩をすくめただけで、それ以上何も言わなかった。


「悠希くーん。これ手伝ってえ?」

 甘ったるい声が響いて視線をむけると、若木さんが高森君を呼んでいた。

「どれ?」

 そんな彼女にも、相変わらずご機嫌な顔で高森君が応じる。

 その笑顔は、さっきとは全然違った。


 若木さんたち数人は、どうやら柳の木を作っているようだった。緑のビニールテープを細く裂いて、柳の葉に見立てているらしい。静電気が立ちまくっている葉っぱに、意外に苦労しているようだ。

「これ、くっつけてくの?」

「そう。結構たくさんあるのよ。ねえ、一緒にやろ」

「あれ、でもあとこれだけ?」

 高森君は、残り少なくなったビニールテープを持ち上げる。それを見た若木さんが、あわてたように付け加えた。

「ううん、足りなかったから委員長にお願いしておいたんだけど……」

「そうなの? 委員長ー」

 高森君に呼ばれた委員長が、はりぼての山をぬってやってきた。

「緑のビニールテープない?」

「いけね。生徒会室に用意しておいて、持ってくるの忘れた」

「えー、委員長ひどーい。持ってきてよー」

 矢嶋さんが眉をしかめて非難しても、委員長はそれで動じる人ではない。

「クラス名を書いてダンボールに入れて置いてある。行けばわかるようになっているから、とってきてくれ」

 それだけ言うと、また別のところで呼ばれて行ってしまう。委員長、本当に忙しいなあ。


「じゃあ、……」

 と振り向いた高森君と、ばっちり目が合ってしまった。

「早川さん、今、手空いてる?」

「私?」

「ね、手が空いているようなら、荷物取ってくるの、お願いできるかな。彼女たち忙しそうだし……頼める?」

 そんなに丁寧に頼まれると、断れないじゃない。別に取りに行くくらいいいんだけど。

「いいわよ、行ってくる」

「早川さん、よろしくうー。お願いねー」

「自分の仕事なんだから、自分で行けばいいじゃない」

 それまで黙って聞いていた美樹が、むっとした口調で言い返した。

「だって、早川さん達、おばけだから今日は何もやることないでしょう?」

 にっこりと悪びれない様子で、若木さんが笑う。さらに文句をつけようとする美樹が口を開く前に、作りかけのちょうちんを押し付けて。

「いいよ。私なら大丈夫だから」

「じゃ、行こか」

「は?」

 どういうわけか、高森君も一緒に歩き出してしまった。

「高森君も行くの?」

「だって、僕がお願いしたんだもん。一人で行かせるわけにはいかないよ」

 言って、どんどん私の背を押して教室から出てしまう。振り返ると、唖然としている若木さんと、大笑いしている美樹が見えた。


「大した量じゃないだろうし、一人でも大丈夫だよ? 若木さんとこ手伝うんじゃないの?」

 教室を出たところで聞くと、さわやかな笑顔が返ってくる。

「だから言ったでしょ。お願いしといて、君だけに行かせるわけにはいかないって」

 そういう高森君は、昼休みに見た冷たさが嘘のように、にこにこといつもの笑顔で。

 無言になった私に、高森君はにやりと笑った。にっこり、じゃない。にやり、だ。

「やだなあ。嘘じゃないよ」

「……さっきのあれって、どういうこと?」


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