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あの人……OL風の人だったけど、信じられないくらい真っ白な顔色じゃなかった? 氷のように冷たい体じゃなかった?
まるで、暖かい血なんて流れてないように。
「でもその子、本当にそういう亡くなり方をしたんだって。で、警察から彼女が死んだことに対して厳しく箝口令が敷かれてて、だからまともにお葬式ができなかったんだって。村木さん、それが悔しいって泣いてたらしいわ」
それで、裕子ちゃん、浮かない顔をしていたんだ。
今まで、単なる噂だと思うから、興味本位で話もできた。でもそれが、現実味をおびてくるとなると、話は別。
そんなのりっぱに猟奇殺人じゃない。
「私も、そうなの」
思わずつぶやいてしまった声に、3人の視線が私に集まる。
「警察の人に、言っちゃいけないって言われてるから、内緒にしてね」
あたりをうかがって、声をひそめる。でもこのメンバーなら、話しても大丈夫だよね。
「先週の金曜日にね、寄り道してて帰りが遅くなったんだけど、その帰り道にOLさんらしい若い女の人が倒れているのを見つけたの……その時には、もう、その人亡くなってた。すごく体が冷たくて、顔色も真っ白で……彼女も、もしかしたら、体中の血が……」
「事故にあったんじゃなくて?」
問う美咲の言葉も、なんとなく控えめだ。
「でも、あれから新聞とかテレビとか目を通すようにしているんだけど、そんなニュース、どこにも出てないのよ。病死なんかじゃない。自殺にも見えなかった。私も、警察からすごく厳重に、誰にも話すなって言われて……」
「早川さん」
急に声をかけられて、ぎょっとして振り返る。
廊下から、高森君が顔をのぞかせて声をかけていた。
「坂本先生が、次の時間、早く来て準備手伝ってくれって。早川さん、今週の週番だよね?」
「あ、うん……わかった」
今日、実験でもするのかな。
時計を見るともう昼休みも終わりの時間に近かった。
私は、半分ほど食べ終わっていたお弁当をそのまま片付ける。こんな気分では、もう食べる気にはならない。
席を立ちながら裕子ちゃんを見ると、すっかり青ざめていた。
しまった。
「私のは、もしかしたら何か本当に事情のあった人なのかもしれないから」
わざと明るく、その肩を叩く。
「裕子ちゃんも、あまり心配しない方がいいよ。それ、隣町の話だし」
「うん、ありがと。そうよね、気にしない方がいいよね」
私に、というより、自分に言い聞かせるようにうなずいた。
授業の道具を持って生物室に行こうと教室を出ると、そこにはまだ高森君が立っていた。私に気が付いて、入れ替わりに教室へはいる。
そのすれ違いざま。
「話すなって、言われたでしょ?」
「え?」
耳慣れない低い声色に、聞き間違いかと思って振り返る。と、入り口の扉に手をかけた高森君が半分だけ振り向いて。
「だめだよ、余計なことを話しては。きじも鳴かずば……ってね」
それだけ言うと、静かに戸を閉めてしまった。
残された私は、唖然としてその扉をみつめる。
今の…………高森君、だよね。
いつも見ているほがらかな彼とは、全然違う、冷たい声。細く鋭い目。
余計な事って、さっきの話?
なんで、高森君がそんなこと言うの?




