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「瞳子、まだ調子悪い?」

 お弁当を食べるために机を寄せながら、美咲が聞いた。

 私はお茶を出しながら、なるべく明るく答える。心配させちゃってたのかな。

「ううん、だいぶ元気になったよ。具合悪いわけじゃなくて、単なる寝不足だし」

「寝不足って……受験勉強? 委員会も毎日会議あるんでしょ? 瞳子、真面目だから。文化祭前くらい、ちょっとは手、抜きなよ」

 美樹がさっさとお弁当を開けながら言った。


 会議とは言っても、そういう名目で集まってぐだぐだと盛り上がっているだけだから、疲れることなんてしてはいない。それはそれで、楽しいのだ。

 気分がすぐれない原因は体の調子が悪いからだけじゃないとわかっていたけど、教室であの件を話すのも気が引けたので、私はあいまいに笑っておく。


「私はもう引退しちゃったからクラスの方しかないけど、委員会まであると大変だよね」

 美咲はハンドボール部を夏に引退している。その美咲にむかって、美樹が胸をはった。

「私だって、部の発表あるから大変だよ」

「瞳子みたいに、勉強と両立できてたらね。あんたは手、抜きっぱなしでしょ」

 美咲の言葉であさっての方向を向いた美樹を笑って、ふと、裕子ちゃんがほとんどお弁当に手をつけてないのに気が付いた。

「裕子ちゃん?」

 私が声をかけると、はっと気づいたように顔をあげた。

「あ、ごめん、瞳子ちゃん、何? 聞いてなかった」

「ううん、そうじゃなくて。どうしたのかなって」

「ここのとこ、裕子もずっとそんな感じよね」

 美樹をからかっていた美咲も、その顔色に気づいて箸をとめた。

「顔色よくないよ。何かあった?」

「うん……。あのね……」

 問われて、ほっとしたように話し始める。どうやら具合が悪いわけではなく、話したいことのきっかけがつかめなかったようだ。


「こないだの週末に、お兄ちゃんが帰ってきたの」

「お兄ちゃんて、中里大学行ってるあのお兄ちゃん?」

 裕子ちゃんは二人兄妹で、お兄ちゃんは今、大学に通うために家を出て隣町で一人暮らしをしているはずだ。

「うん。お兄ちゃん、お葬式に出るからって、お父さんの喪服借りにきたの。それが、すごく変なお葬式だったらしくて……その話なんだけど」

「変なお葬式って……どんな?」

 美樹が眉をひそめて手にしたお茶を置く。


「隣町に住むお兄ちゃんの親友の妹がなくなったんだって。私たちと同じ高校生だったらしいんだけど、それがね……」

 裕子ちゃんが、声をひそめる。

「なんで亡くなったのか、最初、理由をはっきりとは教えてくれなかったんだって。お葬式自体はすごく豪華で立派だったんだけど、その割には弔問客がやけに少なくて、その親友さん、村木さんていうんだけど、村木さんの友達もお兄ちゃんくらいしか来てなかったし、亡くなった女の子の友達も二、三人しかいなかったんだって。明るい子だったから、そんなに友人が少ないわけないのにおかしいな、ってお兄ちゃん思ったらしいの」

「何か事情があるんじゃないの? 自殺……とか」

 美咲も声を落として聞いた。

「ううん、そうじゃなくて……お葬式のあと酔っぱらった村木さんが、うっかり漏らしたって感じで口にしたらしいんだけどね……」

 そこで裕子ちゃんは、言葉をきった。もったいぶる、というより、それを声に出すのに勇気を振り絞るように。


「その妹さん、塾の帰りに体中の血を抜かれて死んでいるのを、発見されたんだって」

 かすかに震える声を聞いて、一瞬私たちも言葉をなくす。

「……それって」

「そうなの。例の噂と同じでしょ?」

 とっさに、私の頭に例の女性がうかんだ。


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