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 カーテンから差し込む太陽の光をただじっと眺めている。


 結局、一晩眠れなかった。少しうとうとすると、ガラスのような目をした女性の顔が浮かんできて、悲鳴をあげて飛び起きる。そんなことを一晩繰り返しているうちに、外が明るくなってきてしまった。

 今日が土曜日でよかった。こんな状態で、学校へなんて行きたくなんてない。


 あれから警察へ行って私も話を聞かれた。ようやくお父さんに迎えに来てもらって家に帰ってきたのは、かなり遅くだ。

「瞳子、起きてる?」

 ドアをノックする音が聞こえて、お母さんが顔を出す。

「んー……起きてる」

「ご飯食べる? それともまだ寝てる?」

 妙に優しいお母さんに、冷えていた胸がほんわりとあたたかくなる。

 いつもなら、たとえ土曜だろうが布団を剥ぎ取って起こしにかかるのにね。気遣ってくれる気持ちが嬉しい。

「起きる……何か、暖かいもの飲みたい」

「じゃあ、ホットミルクいれようか。食パンがあるから、トースト作るわ」

 ほっとしたように言って、お母さんがドアを閉めた。私はのそのそと起き上がると、着替えを始めた。


   ☆


 その日は結局、一日中家の中でぐだぐだして過ごした。

 でも次の日は、借りていた市立図書館の本が返却期限だったこともあって、気晴らしに家を出ることにした。美樹は今日もクラブだ。


 電車に揺られながらぼおっと景色を見ていると、おとといのことがまるで夢みたいだ。

 昨日も今朝も新聞の隅から隅まで全部目を通したけれど、それらしき事件は出ていなかった。

 警察に行った時に、やけに強く口止めをされたことが気になった。もともと大声で吹聴してまわるようなことじゃないから、私だってそうそう言って回るつもりはない。なのに、お願い、というよりは、ほとんど命令に近い言葉で、誰にも言ってはいけないと言われた。迎えに来た父はともかく、たとえ家族にさえ必要以上には話すな、なんて、どんな事件かと逆に気になってしまう。

 首筋から血を流していたから、病死とかじゃないよね。事故なら余計に新聞には載るだろうし……自殺、の割には、近くにナイフみたいなものもなかったように思う。思い出せば思い出すほど、なにかすごく事件ぽく思えるんだけど。


 事件。あの噂。

 一瞬、私の頭の中に、最近流れている例の噂が浮かんだ。

 まさか……ね。


 そんなことを考えながら図書館でまた新しく本を借りて、駅前でコーヒー飲みながら途中までそれを読んで、いくらか気が晴れてから帰途についた。


 駅から商店街を通り抜けて、例の小路に通りかかる。

 まだ夕暮れには早い時間で、公園には遊んでいる子供たちの姿が見えた。公園の中央にある大きな時計が、ちょうど正時のチャイムを鳴らすところで、聞きなれたその音に足を止める。


 いつも通りの、のどかな光景。

 うん。今は明るいし。いつまでもここを思い出すときにあの暗い夜道ばかりでてくるのは、嫌だもの。どうせ思い出すのなら、こんなふうにのどかな風景の方がずっといい。

 私は、その小路に足を踏み入れた。


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