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遅くなっちゃったなあ。
最寄りの駅で電車を降りて、商店街のいつもの帰り道を歩いていく。まだ営業している店も多いし帰宅中の人もかなり歩いていて、夜の始まった商店街は案外賑やかだった。
デート……かあ。
私は、手を降って電車を見送ってくれた真崎君のことを思い出していた。
委員会が終わってから、駅前のショップにCDを買いに行って、近くのコーヒーショップでコーヒー飲んで。
昨日は本当に駅まで一緒に帰っただけだから、こんなにゆっくりと真崎君と話したのは初めて。緊張するかな、と思ったけど、案外と楽しかった。もし、真崎君と付き合うことになったら、ずっとこんな感じなのかな。それって、すごくいいかも。うん、悪くない。
気もそぞろで大通りを曲がって小路に入ると、急にあたりが薄暗くなる。右手にある広い公園のせいで、商店街の明かりが遮られてしまうのだ。でも、ここを通らないとかなり回り道をしなければ向こうの通りに抜けられないものだから、この道を使う人は結構多い。
その時も、浮かれていた私は深く考えもせずに、その道に足を踏み入れた。
「え?」
考え事をしていたせいで、気がついたのは、すぐそこに近づいてからだった。ちょうど通りの真ん中あたり、電柱についている小さな街灯の光の輪の中に。
誰かがうつむいて座り込んでいた。
ぎょっとして足が止まったけれど、それが若い女性のようだとわかってあわてて近寄る。
「どうかしましたか?」
声をかけながらかがみこんで、その肩に手をおいた。すると、ぐらりとその体が揺れて倒れる。無防備に倒れたというのに、その女性はピクリとも動かなかった。大きく、目を見開いたまま。
「ひっ……!」
とびすさろうとして足がからんだ。尻もちをついた私は、そのまま動けなくなってしまう。
……まさか……
「どうかしましたか?」
背後から、男性の声がした。強張ってしまった体を無理に振り向かせると、私と同じようにここを通りかかったらしい年配のサラリーマン風の人が近寄ってくる。
普通に話そうとしても、声が掠れて言葉がでない。
「きゅ……きゅ、う……」
「きゅ?」
「救急、車……この人……急に、倒れて……」
それを聞いてその男性は顔を引き締めると、素早く倒れている女性のそばにかがみこむ。状況を把握すると、大変だとつぶやいて携帯を取り出した。
その間私は、ただ座り込んでいるだけだった。
なに、なにこれ。どうなって……
まさか……死んでるの?
その女の人から目をそらしたいのに、瞬きもしないその顔から目が離せない。顔も手も足も、洋服から出ている肌は、どこもかしこも蝋のように白かった。その中で一か所だけ、首筋のあたりがやけに赤く汚れている。
血……?
「今、救急車呼びましたからね。この人は君の友達?」
サラリーマンさんが、動けない私とその女の人の間に入って、おだやかに聞いてくれる。それでやっと、私の視界からその女の人は消えた。
私は、無言のまま首を振った。
「そう。倒れるところを見たの? 誰か他にいなかった?」
その問いに、さっきより激しく首を振った。
動けないままの私の耳に、かすかにサイレンの音が聞こえてきた。




