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「まだ返事してないの?」

「返事っていうか……とりあえず友達で、って答えた。まさか彼が、私のこと好きだなんて思ってなかったから、そんな風に見たことなくて」

「もったいないー! 相手はあの真崎君でしょ? 友達なんて生ぬるいこと言ってないで、付き合っちゃいなよ」

「えー? でもでも、いいのかなあ? だって、相手はあの真崎君だよ? 鷹ノ森のプリンスだよ? なんでそんな人が、よりによって私? あの人、何か勘違いしてない?」

「勘違い?」

「なんかこー、私のことすごい美化してたりとか、目が悪くて私の顔はっきり見たことないとか誰かに騙されているとか……」

「瞳子……もしかして、まだ有田のこと気にしているの?」

 眉をひそめた美樹が口にした名前に、箸がとまる。

「……だって」

「だってじゃないよ。あんたいつまであんなやつのことひっぱってるのよ。あんなサイテー男と真崎君は違うって」


 有田君は中学の同窓生で、別々の高校になったけど卒業をきっかけに付き合い始めた。あの時も向こうから告白されて、軽い気持ちでOKしちゃったんだっけ。好きだって言われて、初めてできた彼氏にすごい舞い上がっていた。優しい彼にどんどん惹かれていって、二人でいることがとても楽しかった。でも……


「瞳子のこと、なんでも言うことをきくおとなしい女だと勝手に勘違いしてたのはあっちでしょ。あんなやつのイメージに自分を合わせるなんてこと、しなくて正解だったと私は今でも思ってる。もう忘れなよ」

 悲しかった。だんだんそっけなくなっていく有田君がわからなくて、話したいのに会ってもくれなくなって。そんな状態に耐えられなくて、別れを言い出したのは私。彼が、同じ高校の同級生ともつきあっていたと美樹が聞いてきたのは、それからすぐのことだった。


「真崎君のことそんなに知っているわけじゃないけれど、見ている限りじゃ誠実な人だと思うよ?」

「私だってそう思うけど……」

 同じ結果になることを、気にしてなかったと言えば嘘になる。辛かったあの時の気持ちを、少しだけ、まだ引きずっているのかもしれない。

 お弁当食べかけのまま考え込む私を見て、美樹が苦笑する。


「しかしさー、真崎君と付き合うことになったら、あんたあちこちから恨まれるよ?」

「だよねー」

 思わずため息がでた。そう。それを考えると、ちょっと気が重くなる。


 真崎君が3年になって図書委員に入ってきてから、格段に女の子の利用者が増えた。しかも、彼の当番である水曜日に限って。同じ曜日の当番だから、その有様をずっと目の当たりにしてきた。


「やっぱりもてるよねー、真崎君」

 浮かない顔の私に、美樹が身を乗り出した。

「当たり前じゃないっ。プリンスの称号は伊達じゃないよ。硬派のイケメン、成績優秀、スポーツ万能。2年の時に3年生を差し置いてバスケ部のレギュラーになってから人気急上昇! 学校内外問わず告白してきた女の子は数え切れないらしいのに本人はバスケに夢中だからって全部断ってて噂じゃ誰か好きな人がいるんじゃないかって言われてたけどまさかそれがこのおとぼけ娘だったとはねー」

 一気にまくしたてた美樹の肺活量に感心して、その顔を眺める。

「だ・れ・が、おとぼけ娘よ。だいたい、別にそんな昔から私のこと好きだったわけじゃないでしょうに。それより美樹、ずいぶんと詳しいのね」

「これくらい、鷹高の常識よ。うちのクラスの若木さんもさ」

 そういえば今日も、高森君に校舎の案内をしていたな、彼女。

「あの子なんて、真崎親衛隊のトップだったのよ? 一時期は本当、どこの試合にでもついてって差し入れだのなんだのってそりゃもうすごかったんだから。結局、のれんに腕押し、ぬかに釘であきらめたみたいだけど」

「それで今度は高森君? でも、二人のイメージって、全然違うじゃない?」

「共通点はイケメン、よ」

 強い口調で言うあたり、美樹の彼女に対する感情が知れようというものだ。


「ふーん。やっぱりすごい人らよね。まはきくん」

 最後に残った卵焼きを食べながら言ったのは、ちょっとお行儀が悪かったかもしれない。

「すごいのよ! そんな人から好きって言われてあんた嬉しくないの?」

 もぐもぐもぐもぐ。ごっくん。

「嬉しいよ。私も真崎君とは仲よかったし、好きか嫌いかと言われれば好きだし」

「でしょでしょ? もったいないよ、瞳子! こんな大きな魚逃したらもう高校生やってる間に彼氏なんてできないかもしれないよ! 残り半年しかない高校生活バラ色にしたいと思わないの?! 相手が真崎君なら絶対OK!」

「俺がどうかした?」


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