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「真崎君に、告白されたああああ?!」
「しー!!」
大声をあげる美樹をあわてて押しとどめる。
昼休みの屋上は、それほど人の姿はない。とはいえ、全くいないってわけじゃないから、美樹の素っ頓狂な声を聞いて、こっそりと胸をなでおろした。
教室でこの話、しなくてよかったー。
「いつの間に?! あんた、真崎君と付き合ってたの?! ……わっ!」
興奮した美樹が、持っていたコップを倒して入っていたお茶を足にこぼす。
「やだっ、大丈夫?」
あわてて持っていたタオルで美樹の足をふく。幸い、ほとんど飲んでしまったあとだったので、軽くかかっただけだった。うん、制服も濡れてない。
「あ、ありがと……。でも、一体どういうこと?」
「うん。おととい、図書委員会の会議の後にね……」
そこにいたのは、主に委員会役員。図書委員会の会議の後で三々五々と委員が帰る中、委員長と副委員長二人、それに小林さんと真崎君が、委員会室に移って次の日の作業の準備をしていた。
「とこちゃんの意見、うまく通ったな」
武藤君が、残った資料を整えながら言った。それを聞いて、亜矢ちゃんも笑顔になる。
「そうだね。最初は仕事増えるからっていい顔されなかったけど、とこちゃんの情熱が通じたみたい」
「情熱ってほどのものじゃ……でも、思ったより賛同してもらえてよかったわ」
委員会でやる古書店は、毎年恒例のもので評判もいいし地域の固定客も多い。けれど、裏をかえせばそれだけだ。図書委員として読書推進はいつでも大きな問題だし、この機会に何かできないかと考えて、一週間前だったけれど、しおりづくりの案を委員会にかけてみたのだ。
「でも、早川さんてもっとおっとりした人だと思ってたから、『もっと楽しくしようよ!』にはびっくりしちゃった」
感心したような小林さんに、亜矢ちゃんが意地悪っぽく笑う。
「とこちゃん、こう見えて芯はしっかりした人だからね。怒ると怖いし」
「それ、褒めてるの? でも、また余計なこと、言っちゃったかなあ」
委員の仕事が増えることは否めない。それでも、せっかくの文化祭なんだから、みんなで楽しめることをやってみたかった。いつもと同じも悪くないけど、もっと楽しくできればそれにこしたことはない。もちろん、副委員長として、私もがんばるし。
「そんなことないと思うよ。最終的には、やってみたいって言ってくれる委員も多かったんだから、いい意見だったんじゃないかな」
戸棚からめぼしい画用紙を取り出しながら、真崎君が笑った。
「俺は、そんな早川さんも好きだよ」
「真崎君……」
はい、と私に画用紙の束を渡してくれる。亜矢ちゃんとは違うさわやかな笑顔に、思わずじーんと感動する。
こういうフォローがすごい上手なんだよね、真崎君は。さすが鷹ノ森のプリンス。ああ、素直な人の情けが身にしみる。
感動している私の肩越しに、亜矢ちゃんが真崎君をからかう。
「おやー、まるで愛の告白のように聞こえるよ、真崎君」
「だって、告白してるんだもん」
さらりと言った真崎君に、その場のみんなが固まった。
委員の人たちが帰っていくざわめきが、静かになった委員会室に響く。真崎君は、固まった私たちに構うことなく、腕時計を確認すると自分のカバンを手にする。
「悪い、俺、先帰らしてもらうね。これから予備校の講習なんだ」
まるで何事もなかったように、そして急ぐでもなく、真崎君は委員会室を出ていく。
「じゃ、お先。また明日ね、早川さん」
「あ……うん。またね……」
我に返ってとりあえず手を振る私に、余裕の笑みを残して真崎君は帰って行った。武藤君が首をひねる。
「今の、何?」
「なんかあっさりと認められたけど……とこちゃん、告られたの?」
「さあ……」
あまりにさっぱりさわやかだったので、おそらく当事者である私自身も、その問いには答えられなかった。状況が把握できない。
……今、何が起こったの?
「で、どうも本気らしい……んだよ、ね」
話しながら、ため息がもれる。そんな私を、美樹が呆れたように見ていた。
「そりゃ、真崎君はそんなこと冗談で言うタイプには見えないけど……なんでそれ、ため息つきながら言うわけ?」
「だってさー。……ねえ、私、どうすればいいと思う?」




