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 おおー、という歓声とともに、盛大な拍手が起こる。お祭り好きの図書委員は、相変わらずノリがいい。高森君は、上機嫌でその声援に応えて、つい、と私の方を向いた。


「彼氏が一緒なら、暗くても安心だね」

 相変わらず微笑んだまま高森君が言った。もうそれが素顔なんじゃないかと思うくらい、高森君はいつでも笑顔だ。

「そーよねー。真崎君が一緒なら、たとえUFOに会っても返り討ちにしてくれそうだね」

 のんきに笑う亜矢ちゃんに、真崎君が苦笑する。

「でも俺、宇宙人相手に喧嘩したことはないんだけど」

「あんなの噂だけでしょ。もう、変なこと言わないでよ」

「噂って?」

 私の言葉に、きょとんと高森君が聞き返す。

「ああ、転校生なら知らないか。最近、この街に流れる都市伝説なんだけどね」

 亜矢ちゃんが、わざとらしく声をひそめた。


「若い女性が夜一人で歩いているとね、UFOにさらわれて、体中の血を抜かれて死んじゃうんだって!」

「ついにこの街にも、UFOが!」

 オカルト雑誌を愛読している渡辺君が叫んだ。彼の夢は、UFOに乗って宇宙人に遭遇することらしい。

「へえ。穏やかでない噂だね。ああ、もしかして吉澤先生が言っていた変な噂って?」

「そう、それよ。結構な騒ぎになっちゃってるの。文化祭の準備で帰りが遅い人、多いでしょう? だから、おもしろおかしく流行っちゃって」

 どこの学校の女生徒だのあの会社のOLだのって、聞くたびに尾ひれがついている。

「ただの噂よ。その証拠に、仮にそんな事件が本当にあったとしたら、ニュースで大きくとりあげられるはずでしょ? 見たことないもの、そんな事件」

「とこちゃん、夢がないー。もしかしたら今この瞬間も、あそこらからUFOがうら若き私たちを狙っているかもよ?」

 亜矢ちゃんが、窓を指さして言った。薄闇がかかりかけた窓には、明るい館内の様子がわずかにガラスに反射していた。

「もう。そういうこと言わないでよ」

 あわてて視線を逸らした私の様子を、亜矢ちゃんは面白そうに見ている。


「じゃあ僕は、馬に蹴られないうちにさっさと退散することにするよ。またね、早川さん」

「気をつけてね。また明日」

 手続きの終わった本を持つと、高森君は軽く手を振って図書館を出て行った。ふと気づくと、その後ろ姿を真崎君がじっと見送っていた。

「真崎君?」

「ん? ああ、じゃ、俺らも帰ろっか。武藤、もう帰ってもいいか?」

「あー、いいよ。もう閉館時間だし」

「さんきゅ。行こ、早川さん」

「あ、うん……」

 真崎君は一度奥へ引っ込むと、二人分のカバンを持ってでてくる。

「じゃあねー、とこちゃん、また明日。ぐっとらーっく!」

 陽気に手を振る亜矢ちゃんに手を振りかえして、先に出た真崎君の後を追う。私が追いつくのを待って、鞄を渡してくれた。

「迷惑だった?」

「そんなことないけど……」

「目の前で、惚れた女をさらわれて平気でいられるかっての」

「え?」

「なんでもない。さっきの、誰?」

「高森君? 今日からうちのクラスに入った、転校生よ」

「ふうん。仲、いいの?」

「いいもなにも、今日会ったばっかりよ」

「いや、一緒に帰ろうって言い出すくらいだから、なにか……」

 言葉を濁した真崎君に、ようやく、彼が何を言いたいのか察した。慌てて首を振る。

「ないない。まだろくに話もしたことないし、私だって、何言いだすのかとびっくりしたんだから」

「そか。ならいいんだけど」

 照れたように横を向く。

「変なこと言ってごめん。でも、やっぱり俺は気になるから」

「真崎君……」

「でもちょっと得したな。一緒に帰れて、さ」

 にやりと真崎君が笑った。とたんに、今の状況が飲み込める。

 一緒に、帰る?! 二人だけで?!

 そ、そりゃ今までだって、当番が遅くなった日とか、二人で駅まで帰ったことがないこともない。でも、今日は……

「よ、よろしくお願いします……」

 赤くなった私を見て、はじかれたように真崎君が笑った。



これで第1章は終わりです。まだまだ続きます。長いです。

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