☆
プァーン……
残暑と人いきれでむっとした休日のプラットホーム。夏休み最後の日曜日の夕暮れは、これから帰る人、遊びに繰り出す人の群れでごった返していた。私は、これから帰る人、の中の一人。
両手に持っているビニール袋が、その重さでじわじわと手に食い込んでくる。
後先考えず買ってしまった自分が恨めしい。久々に一人で本屋めぐりをしたから、ついついあれもこれもと買い込んでしまった。美樹がいたらきっと止めてくれたのに。
今日もクラブの練習をしているだろう親友の顔を思い浮かべる。
荷物を持ち直してみるけど、指にかかる痛みはさほど変わらない。
往生際悪くもう一度持ち直した時、ちっ、と指に小さな痛みが走った。視線を落とすと微かに血がにじんでいる。
あちゃー……やっちゃった。やだなあ。切り傷って痛むんだよね。
反対の手に荷物を持たせて、ぺろりと傷をなめる。口の中に広がる、鉄の味。もう一度傷を見ると、またじわじわと赤い色がにじんでいく。
思ったより、深いかな。絆創膏貼っとこうかなあ……
プァーン……
その時、警笛とともに電車がホームに入ってきた。
私が立っていたのは、プラットホームの一番初めのはしっこ。まだ勢いがついたままの電車が目の前を通り過ぎると、逆巻く風に、結ばないまま流した長い髪とシフォンのスカートがさらわれた。
強い風をやり過ごそうと一瞬目を閉じて、ゆっくりとあける。と。電車が通り過ぎた向こうのホーム、私の正面に。
一人の、少年、が、いた。
そのわずかにうつむいた顔立ちに、まず目を奪われた。
うわ……すごーい。息を飲むほどの美貌なんて、生まれて初めて見た。
人間と言うより、まるで精巧に作られた陶器の人形のよう。真っ白い肌に映える少し癖のある柔らかそうな漆黒の髪が、あおられる風にふわりと舞った。うだるように汗ばむこの景色の中で、彼の周りだけが澄んだ氷の風をまとっているように涼しげに見える。坊ちゃんぽい服装が、全然いやみじゃない。
へー。いるところにはいるんだ、こういう人も。
なんて、のんびりと観察していると。
彼が、ふいに顔をあげた。合ってしまった目に、また、驚く。
澄んだ瞳は、深い青色だった。黒髪に碧眼というアンバランスに、つい、そのまま見つめ合ってしまう。
と。途方にくれていたようなその瞳が、大きく見開かれた。
え?
震えるようにその唇が動いて、細い声が、私の耳に届く。
タ ス ケ
揺らめく、瞳。
「何……」
ピイーーーーーーーーーーー!
突然、警笛を鳴らして、私たちの間を特急がすごい勢いで通り過ぎた。いつの間にか黄色い線を越しそうになっていたことに気づいて、あわてて一歩下がる。それと同時に、人々のざわめきと汗ばむ熱気が戻ってきた。
そして、あらためて気づく。
そう、ホームはうるさかったのに。
なんで私、彼の声が聞こえたの? どうして、他の誰も彼を見ていなかったの?
特急が通り過ぎた後のホームに彼の姿はなく、人の波も途切れることはなかった。
幻?
あの人……タスケテ、って言った?




