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想像する後悔  作者: haru
4/9

苦戦

 ラスティから聞かされた次の対戦者の名前は「スロース」、能力は「再生能力」、とのことだった。再生能力。それがどれほどのものなのか、智也は少し考え込む。非常にゆっくりとした再生能力なら取るに足らないものだろう。しかし、瞬時に再生する類の能力なら…きっと嫌な戦いになるだろう、と考える。

 「相変わらずしけた顔してるね…この世の不幸をしょい込んでます、って感じの顔。好きじゃないね。」

 「じゃあなんでお前は俺に協力してくれているんだよ?」智也は思わず聞いてしまう。

 「そんなの私の勝手でしょ。お蔭で楽して勝ててるんだからさあ。感謝の言葉でも述べてればいいのに。 「ジャアナンデオマエハオレニキョウリョクシテクレテイルンダヨ」だって。馬鹿じゃないの?自分で考えれば?」

 聞かなければよかったと思う智也を尻目に、ラスティは言葉をつづけた。

 「あ、そうそう。智也の試合でベスト8が出そろうんだってさ。せいぜい頑張って勝ってね。」

 言われなくともそのつもり、である。それに、負けたとしてもどうということはない。現実での閉塞感が、智也にある種捨て鉢の覚悟をさせる。

 『それでは本日の第4試合!イマジン・ヴァーサス・スロースーーーー!!』

 そうだ、ここでの俺はイマジンだ。想像した通りに事象を操作できる能力。負けるわけがない能力。

 相手の戦士、スロースは、全身を騎士の鎧のようなもので固めており、顔だけは何も覆われていない格好である。長いくせ毛に、無精髭。鋭い瞳。40代前半といったところだろうか。上司にしたら怖いタイプだろうな、などと智也は考える。

 試合が開始されるとともに、スロースは右手の剣で執拗に切り付けてくる。だが、太刀筋は以前戦ったグリード程の事もなく、素人の智也でも躱せる程度である。相手の攻撃を躱した隙に、智也はイメージする。相手の剣より鋭い真空の刃。かまいたちと呼ばれる現象を呼び起こした。たちまち、スロースの右腕は鮮血と共に宙を舞う。鮮血はスロースの鎧と、智也の左半身を等しく赤く染め上げる。

 「ぐぎゃあああああ!!」

 スロースの痛みに呻く声が上がる。顔に滴る脂汗、口の端に溜まる白い泡が苦痛を物語る。しかし、その苦痛とは裏腹に、スロースの右手は再生している。さっきまでスロースの右手だったものから剣を取り上げると、もう一度智也に切りかかる。智也は先ほどと同様に、スロースの右腕を切り落とす。

その一連の流れが、何度繰り返されただろうか。智也もスロースも、すでに血まみれである。ステージである石畳の上には、スロースの右腕が十数本は転がっている。

 「おい、いい加減に諦めろ!」

 先ほどから繰り返される智也の叫びに、スロースが耳を貸す様子はない。スロースはまた智也に切りかかってくる。一瞬だった。勝ち目がないのになんで…智也がイメージを躊躇った瞬間、今度はスロースの剣が智也の左手を切り飛ばした。焼けるような痛みが智也を襲う。

 「うわああああああああ…!!」

 予想外のスロースの逆襲に、闘技場のボルテージも高まる。スロースは肩で息をしながらも、智也にとどめを刺しにかかってくる。

 「首を狙いなさい!!」

 ラスティの声か、と認識すると同時に、智也はかまいたちで目の前の男の首を落とすイメージをする。そのイメージが完了したとき、スロースの首は床に落ちていた。続いて、首を無くした体が崩れ落ちる。

 『第4試合、勝者、イーマジンーーーーーーー!!』

 イメージで左腕を修復した智也は、礼を言おうと客席にラスティを探した。しかし、いつもの通り見当たらない。きょろきょろと少女を探す智也に、ローブの女性が近づく。智也が初めてこの世界に来た時に出会った女性だ。

 「イマジン。よくここまでたどり着きましたね。あと3回勝てばあなたの本当に望むものを差し上げましょう。」

 「あんた、誰だ?どうしてこんなことをする?」智也はこれまでの疑問をぶつける。

 「私がだれかなど、どうでも良いことです。…それより、あなたに少し頼みがあります。」

 間をおいて、女は言った。

 「この世界に招かれざる者が紛れ込んでいるようです。その者たちに勝たせるわけにはまいりません。だから手助けをしようというのです。」

 智也は迷った。これまでの闘いでサポートをしてくれたのはラスティだ。そのラスティではなく、この女が新たな情報屋になるというのか?何にしても、一度ラスティと会って話がしたい。彼女をあてどなく探しまわる智也の目に、信じがたい光景が飛び込んできた。典子だ。典子がいるのであある。しかも、典子の傍にはラスティがいる。近づこうとしたが、抗いがたい眠気が智也を襲う。何とか開こうとする智也の瞳には、自分を憐れむように笑う2人の顔が映った気がした。

目を覚ました智也。ぐっしょりと寝汗をかいた右手には、しっかりと典子のマフラーが握られていた。

 「典子がなんで…」

 智也の独り言は、誰もいない彼の部屋に虚しく響いただけだった。


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