第一章 第六節 空の英雄
夏希と会議室を離れた照輝は今大和の甲板にいた。空には綺麗な月が昇り海にうつっていた。海の向こうには赤城や山城が見えた。
「で、航空隊の祝賀会ってどこでやるの?」
「つかまってください」
「へ?何?」
突然夏希の体が青く光りだした。しばらくして自分も光っているのに気がついた。少し考えてから前大和とやった瞬間移動であることに気がついた。
「どこに行くの?」
「赤城です」
夏希の返事を聞くと照輝はなるほどと思った。航空隊の祝賀会ともなれば第一航空艦隊旗艦の赤城でやるのが最もふさわしいだろう。と、そこまで考えてなぜ艦魂の祝賀会は『長門』でやらないのだろう、と思ったがそれは後で考えることにした。
「じゃあいきますよ」
「うん、いいよ」
彼が答えるのを聞くと夏希は瞬間移動を行った。気がつくと照輝の目には広大な甲板が写っていた。
「うわぁ、僕空母に乗るの初めてなんだ」
「こっちから中には入れます」
そう言うと夏輝は甲板の端にある階段から下に降りていった。階段を下りていくとすぐに目的地についた。夏輝は「ここです」と言うと扉を開いた。
そこは広い空間だった。まるで艦の中とは思えない広さ。どこまでも続いているのではないかという長さだった。そしてその空間には何十という数の飛行機が所狭しと並んでいる。照輝は夏希の後ろについていった。中は賑わっていた。ぎゅうぎゅうに並んでいる飛行機のあいだに十四から二十歳というくらいの少女が床に座って酒を飲んだり楽しそうに話したりしている。と、そこで夏希が敬礼をして誰かに話しかけた。
「戦艦大和航海士 篠原照輝少尉をお連れしました」
照輝が誰に話しかけているのだろうと思い夏希を見ると彼女は上を向いていた。
「・・・?」
照輝も夏希が見ている方を見るとそこには天井に穴があいており上の階が丸見えだった。そしてそこに一人の少女が立っていた。その人物は飛行服に黒いショートヘア、人間でいえば十九歳ぐらいであろう。しばらくするとその少女は口を開いた。
「ごくろうさま」
一言そう言うと彼女は後ろを向いてそばにいた十四歳ぐらいの少女に「おろして」というと穴から少し離れた。しばらくするとけたたましい警報音がなった。そして数秒後に天井が少しずつ降りてきた。
「て、天井が・・・」
照輝は驚きでその場から離れられなかった。と、その時、後ろの方から夏希の自分を呼ぶ声がした。その声に照輝が振り向くと夏希が少し離れたところから手をメガホンのように口に当てて言った。
「少尉ー、そこにいると危ないですよー」
「え?」
それとほぼ同時に一回上の階で止まっていた天井がさらに降りてきた。
「え?ちょ、う、うわあぁぁぁぁぁ」
照輝は叫びながら夏希の方へ走っていった。そして照輝が夏希のところへつくのとほぼ同時に天井が床まで降りてきた。その天井の上にはさっきの少女が立っていた。気がつくと周りの少女はみんなその少女に対して敬礼している。その少女は警報がなり止むと同時に照輝の方へ数歩歩いてきて穴の外までやってくると上を向いて大きな声で「上げていわよ」と言うと照輝の方に向き直った。その後ろでは今度は天井が上に上がってった。照輝がどうするか困っていると少女が敬礼してこう言った。
「はじめまして。赤城戦闘機隊隊長機、並びに大日本帝国海軍空の会会長を務めさせてもらっているAⅠ-155の空魂、零式美奈海です。美奈海と呼んでください。よろしくお願いします」
「え、ああよろしく・・・」
そう言うと二人は握手をした。握手が終わると美奈海はとなりにいた少女から拡声器を受け取るとスイッチを入れ大勢に向かって話し始めた。
「皆さん、我々は先日真珠湾にて奇襲攻撃に成功しました。そして本日祝賀会を行うにいたりました。そこで今日はゲストをお呼びしまいた。戦艦『大和』航海士の篠原少尉です。彼はこの世で人数が少ない私たちが見える方です」
その言葉に周りから「おお」という声が上がった。ほとんどの空魂が自分たちが見える人間に初めて会ったらしい。
「それでは篠原少尉から一言」
「え?」
「じゃあお願いします」
「え、でも・・・」
「大丈夫です私はいつも喋っていますから」
「そうですよ少尉、たまには喋べらないと」
「そういう問題じゃないんだけど・・・」
だが周りを見ると全員の注目が自分に集まっておりとても逃げられる状態ではなかった。
「え・・・っと、篠原です」
照輝が一言言うと数秒間誰も喋らなかったが数秒後に拍手が湧いた。
「ありがうございました。それでは奇襲成功を祝して、乾杯」
「かんぱ~い」
そう言うとみんな一気にコップの酒を飲み干した。横にいた少女がコップを置くと大きな声で言った。
「やっぱり作戦後の酒はうまいわね」
そこかで聞いたようなセリフを聞きながら照輝は呆然としていた。そこへその少女が話しかけてきた。
「ども、私は赤城攻撃機隊所属九七式艦攻AⅠ-301の空魂の九七式乃々美だよ」
「あ、どうも」
彼女は酒を持って照輝のよこにきて「座ろうよ」と言うと照輝の横にあぐらをかいた。
「めずらしいよね?君みたいな人」
「うん、そうらしいね」
「君は先の奇襲に出撃したの?」
「え?いやまだ入ったばかりだから」
「そう」
そう言うと乃々美は酒を一杯飲んだ。そこへ数十人の集団がやってきた。そしてその先頭にいた少女が言った。
「あの、私達加賀飛行隊のものなんですが」
「何?」
そう聞くと今度は少し後ろにいた少女が聞いた。
「あのっ少尉は彼女はいますか?」
「え?」
照輝は急に聞かれてびくりしてしまった。もちろん彼女などいないのだがそのような話をすることがない照輝はどう答えるかに迷ってしまった。するとそのうちに数人が「やっぱりいるのかな」とか「あの反応はいるんじゃない?」とかいう声が聞こえてきてなおさら答えにくくなってしまった。と、そこで照輝に救いの手が差し伸べられた。
「こら、少尉が困ってるでしょ。そういうことはもうすこしたってから質問しなさい」
そういったのはさっきの美奈海であった。彼女はやはりそれなりの権力があるようで周りにいた少女たちは少しずつはなれていった。
「ごめんね。ちょっといきなりで」
「いえ、大丈夫です」
「それより君、まだいて大丈夫なの?」
「え?」
「もうそろそろ艦内巡回始まるよ。そしたら部屋まで戻れないんじゃない?」
「え!そんな時間ですか!」
艦では夜になると艦内巡回が行われるため見つかるといろいろ面倒なのでそれ以前に帰ろうお思っていたがいつの間にか時間がかなりたっていたらしい。と、そこで夏希がやってきて言った。
「少尉、私が送って行きますよ」
「ん?ああ、ありがとう」
そう言って照輝が夏希の服を掴むと美奈海が言った。
「その必要はないみたいよ」
「え?」
「ほら」
そう言って美奈海が指を刺した方には大和がいた。
「迎えに来てくれたの!?」
「もう巡回始まります。さあ帰りますよ」
そう言うと大和は照輝に自分の服を掴ませ瞬間移動をした。
気がつくと照輝は大和の甲板にいた。月は赤城に向かう時よりも高い位置に昇っていた。
「・・・あのあと大変だったんですよ。長門さんに色々聞かれるし、日向さんにはいじられるし・・・」
「え・・・ご、ごめん」
「別に謝らなくてもいいんですよ?私も悪くないわけではないですし・・・」
その時照輝はふと疑問ができた。
「・・・大和はなんで僕に名前を教えてくれたの?」
その言葉に大和は少し躊躇しながらも口を開いた。
「・・・少尉は初めて艦魂以外で話した方だったので・・・その・・・大切にしたいと思ったで・・・」
それを聞くと照輝は今まで感じたことがない感情が湧いて無意識にその言葉を口にしていた。
「そっか・・・ありがとう」
そう言うと照輝は大和といっしょに中へ入っていった。
第六節、どうだったでしょうか。今回は空母の空魂たちをだしてみました。本当はもう少し出すつもりだったのですが結局赤城の数人しか出せませんでした。次回はまた艦魂との話になると思います。これからもよろしくお願いします。