第一章 第三節 戦艦たちの魂
真珠湾攻撃攻撃から始まった太平洋戦争で日本軍は香港、フィリピン、グアムなどに部隊を展開した。その多くの戦いの中で日本軍は連合国に勝ち続け勢力を広めていった。
そして開戦から数日が経ったある日、照輝は防空指揮所にいた。ここからは柱島に停泊している艦が見渡せる。『大和』の周りには戦艦『長門』や『陸奥』『扶桑』『山城』などが停泊している。今の旗艦は『長門』であるため泊地の中心にある旗艦ブイには『長門』が係留されている。
「これだけ戦艦が集まると圧巻だなぁ」
するといつから居たのか照輝の後ろにはひとりの少女がたっていた。
「でも今は『金剛』型戦艦はみんな出撃していますから帰ってくればもっとすごいですよ」
「あの『長門』や『山城』にも艦魂はいるんだよね?」
大和に出会ってから数日が立ったが照輝はまだほかの艦魂とあったことがない。
「ええ。それに会った事はありまんがあそこにいる水雷艇などにも艦魂は宿っているそうです」
と、その時照輝は『大和』の後部に数人の少女が竹刀で打ち合っているのに気がついた。
「ねえ大和、あそこにいるのは何さん?」
照輝はもう一人の少女を指差しながら言った。
「あ、少尉はまだあったことがないんですよね。下に行きましょう。紹介しますよ」
「よろしく頼むよ」
そう言うと照輝はラッタルを降りようとした。と、それを大和が止めた。
「少尉、こっちです」
「ん?だって下に行くんでしょ?」
「いいからこっち来てください」
照輝は何をするのかわからないまま大和のそばへ行った。
「じゃあ行きますよ」
そう言うと大和は目をつぶった。それと同時に照輝と大和の周りが輝き始めた。
そして気がつくと照輝たちは砲塔の横にいた。
「えっあれ?防空指揮所にいたのに・・・ここは・・・後部甲板?」
「ええ、そうです。今のは艦魂の能力の一つ、瞬間移動です」
―瞬間移動 それは艦魂の能力の一つで一定の距離内なら一瞬で移動できるものである―
「へーそんなことが・・・艦魂って便利だな」
「・・・艦魂は便利屋じゃありません」
「あ、大和」
照輝が指差しながら言うとひとりの少女がこちらに気づいて近寄ってきた。
「大和、一緒にやらない?」
少女はそう言うと竹刀を差し出してきた。流石帝国海軍の艦魂である。少女たちは防具を一切つけないで打ち合っていたようだ。
「すみません。私は遠慮しておきます」
「あ、そう・・・じゃあまた誘うね」
そう言うと少女は立ち去ろうとした。それを大和が止めた。
「あ、あの紹介したい人がいるんです。
「ん?紹介?新造艦はないはずだけど?」
「いえ、艦魂ではなくてですね」
そこまで言われて少女はやっと照輝の存在に気がついたのか照輝のほうをちらりと見た。
「こちら私の航海科に務めている篠原照輝少尉です」
そう言われると少女は珍しいものを見るように照輝を見ていた。
「彼が例の大和のお気に入りの」
「はい、艦魂が見えるそうです・・・って別にお気に入りでもないですよ!?」
少しうるさい大和を横目に少女は照輝の方に向き直って言った。
「大日本帝国海軍所属戦艦『長門』艦魂の長門です」
「長門・・・っていうと聯合艦隊旗艦の!」
「ええ、私が聯合艦隊旗艦です」
当時国民には『大和』の存在は知らされていなかったため『長門』が海軍の象徴のようなものだった。その戦艦の艦魂を目の前にして興奮しないわけがなかった。
「昭和11年の神戸沖の観艦式、僕も見ましたよ。あの時の長門さんといったらもう正に戦艦の象徴というような感じでした」
「あら、ありがとう」
「・・・私も観艦式出たかったな」
大和が羨ましそうに言うと今まで真面目な顔をしていた長門が少し笑って言った。
「と、まあ真面目なのはこのへんまでにしてもう少し楽しく行こっか!」
「え?」
照輝は少し驚いてしまった。聯合艦隊旗艦の艦魂であればもう少し硬い人かと思っていたのだがそれが今の一瞬で 覆されてしまった。さっきまでの真面目な長門とはがらりと変わっていまの長門は60年後のそのへんにいそうなお姉さんキャラの少女、といった感じである。
それにしても大和と会った時も思ったが艦魂の年というのはどうなっているのだろうか。長門は就役から21年経っているがまだ18歳ぐらいに見える。大和に至ってはまだ1ヶ月経っていないのに外見は15歳ぐらいだし普通に立ってしゃべっている。
「あら、女子に年を聞くのはマナー違反よ」
「僕まだ何も言ってませんよ・・・」
「なんとなくでわかるものなの」
「そうですか・・・」
「まあ恋に歳は関係ないよ!全力でこい!」
「別に惚れてませんよ!?」
「まあそう言わずにいっそのこと『長門』で働けば?」
「ちょ、ちょっと長門さん!少尉は私の航海士ですよ!」
「・・・大和は篠原くんが好きなの?」
「えっ・・・いや、そんなわけじゃ」(顔赤らめ)
三人が楽しそう(?)に話していると他の艦魂たちもやってきた。
「ちょっとその人誰?」
「もそかして大和が気に入ったっていう・・・」
「私達が見えるの?」
みんな珍しそうに照輝を眺めている。まるで日本にパンダが初めて来た時のようだ。(パンダが来たのはこの31年後だが)
「皆さんご紹介します。この人が私の航海科に務めている篠原照輝少尉です」
大和が紹介するとショートヘアーの少女が大和に質問した。
「大和?彼は私たちが見えているの?」
それに対して大和が答える。
「はい!彼は私たちが見えます」
大和が答えると艦魂たちの中から歓声が沸いた。
「はーい。彼の好きな女子のタイプはなんですか?」
今度はセミロングの少女が質問した。
「え、好きなタイプ?少尉、好きなタイプはなんですか?」
「え・・・」
照輝は困ってしまった。今までの人生でそんなこと一度も考えたことがない。照輝が答えずにいると大和が回答を催促してきた。
「少尉、早く~」
照輝が艦魂たちを見るとみんな照輝の方をじっと見ている。答えを待っているようだ。彼を助けてくれる人は周りにいなかった・・・いや一人だけいた。
「ほら~篠原くんが困ってるじゃない」
そういったのは長門であった。
「まったく、あなたたちも自己紹介をしなさいよ」
「あ、そういえば忘れてた」
さすが聯合艦隊旗艦である。統括力は十分であった。
「じゃあ最初は・・・」
「はいはーい、私が最初にやるー」
「ん、じゃあ日向から」
最初に手を挙げたのはさっきのセミロングの少女であった。気づくと司会が大和から長門に変わっていた。
「やたー。わーい一番」
彼女は一度敬礼をして自己紹介を始めた。
「えーと、大日本帝国海軍所属戦艦『日向』艦魂の日向です。えーと好きなものはカレーです・・・でいいのかな?」
「じゃあ次は私ね。帝国海軍所属戦艦『扶桑』艦魂の扶桑です」
「私は戦艦『伊勢』艦魂の伊勢です。日向の姉です」
「戦艦『陸奥』艦魂の陸奥です。好きのものはお姉ちゃんです!」
「え、えーと、最初が日向で次が・・・・」
「まあ名前はそのうち覚えるから大丈夫・・・っと忘れてたあなたも自己紹介するのよ」
長門が見ている先にはもう一人の少女がいた。
その少女は大和の三番砲塔にもたれかかって本を読んでいた。その艦魂は長門に言われると顔を上げて言った。
「大日本帝国海軍所属戦艦『山城』艦魂、山城」
そう言うと少女はまた読書に戻った。
「ごめんね。彼女、誰に対してもああなのよ」
「あ、大丈夫です」
「まあ、君なら彼女と話せるかもしれないからよろしくねー」
そう言うと長門は他の艦魂たちと共に去ろうとした。それを停めて照輝が質問する。
「え?ちょっとどういうことですか?」
長門は振り返って笑顔で言った。
「この世界ではあなたみたいな人は珍しいから。私からしても、山城からしても、大和からしても」
そう言って長門は消えてしまった。それと同時にほかの艦魂たちも消えた。おそらく自艦に戻ったのだろう。
そのあと照輝は召集がかかったので大和と一緒に艦橋へ上がっていった。
すみませんでした。開始早々更新が遅れてしまいました。しかし次話は全体的に構成が決まっているのですぐに更新できると思います。これからもよろしくお願いします。