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第12章(完結)

「失礼します。」


 俺たちはおじいさんの知り合いだと名乗って家の中に入った。俺と店長は職業も明かしたので、おじいさんと知り合いだとしてもおかしくないと思ってもらったのだろう。森田のおばさんも近所づきあいをしてそうな顔である。親戚か何かであろう受付係の人物は、無精髭をはやした男にだけ怪訝そうな顔を向けていた。

あの推理大会から二日後、俺たちは仙波の爺さんの葬式に来ていた。


 家の中にいる人は少なかった。俺も見たことがある近所の人が何人かと、親戚らしき人たち数人だけだ。その親戚たちもそれほど悲しそうな顔はしていない。喪主らしき中年の男性の行動もどことなく作業めいて見えた。

 遺影のおじいさんは近所で有名だった頑固で昔気質な顔ではなく、あの事件の日の記憶にある通りの顔をしていた。表情はぼーっとして遠くを見ているようで、もう少しましなものはなかったのかと一瞬思ったりもした。だがすぐにそれは違うと気づいた。何も考えていないようで、この時だっていろんなことを考えていたのであろう。何せこの人は人を騙すのが得意なのだから。そう思うとあの時の去り際の顔と同じような笑顔をしているようにも見えてきた。服装もあの日と同じような気がしたが、それはただの気のせいかもしれない。


「おじいさんの隣の家に住んでいた小林さんって人に聞いたんだけど」


 帰り道、森田のおばさんがぽつりと話し始めた。そういえば葬儀の時におばさん力を発揮していろんな人と話をしていたようだった。


「おじいさん、奥さんはだいぶ前に亡くなられてて、一人息子やそのお嫁さんとも仲が悪かったらしいわ。離れて暮らしてた上、連絡もほとんどとっていなかったんですって。ただ、お祖父さんの弟さんのお孫さん、ちょとややこしいつながりだけど、その子とだけは仲が良かったそうよ。今20歳くらいの女の子でたまに遊びにきてたらしいわ」

「その方は今日いらしゃったんですか?」


 店長が尋ねる。


「それがね。その子はその子で家族と仲が悪くて、今はどこにいるかわからないそうよ。2年くらい前に男と駆け落ちして消えたとかなんとか。」

「20歳くらいの若い女性か、気になりますね。」

「でしょう?」


 今20歳くらいなら、2年前は高校生くらいだっただろう。駆け落ちには資金もいるだろう。


 再び老人の顔が頭に浮かんだ。何も考えていないようで、何かを企んでいる。例えば、かわいがっている親戚の女の子のために、人生最期のいたずらをしよう、とか。

女の子が仲のいいおじいさんに悩みを相談する。家族は自分のことを理解してくれない。好きな人のことも認めてくれない。でも、二人で駆け落ちするにはお金が足りない。


 その時おじいさんはぼーっとした顔で答えるのだ。自分も長くない。今じゃ頑固じじいなんて呼ばれているが昔はやんちゃもしていた。最後にお前ととっておきのいたずらをしてみたい。そしてそのいたずらが上手くいけば、お前の悩みを少し解決してやれるかもしれない、と。


「ところで加藤様はどこにいらっしゃいますか?」


 店長の言葉で我に帰る。


「そういえば。」

「あら、いつからかしら。」


 三人で顔を見合わせる。いつからだろう。そういえばそもそも一緒に家をでた記憶すらないような。


「おーい!お前ら!お前ら!!」


 と、後ろから懐かしい叫び声が聞こえてきた。


「あら、加藤さんどこに行ってたの。聞いてよ、さっき2人には話したんだけど」

「そんな場合じゃねぇ!!いたんだよ!」


 おばさんの話を遮り男がさらに叫ぶ。


「いた、とはどういうことでございますか?」

「あのガキがいたんだよ!!俺が人質にとってて、でも俺を騙して消えた女子高生のクソガキが!」


 これは驚いた。ではやはり老人と仲が良かった親戚の女の子とはあの・・・。


「なんかお前ら気づいたら居なくて慌てて家でたらよ、少し離れた場所であの家に向かって手を合わせて目を閉じてる男と女がいてよ。なんか見覚えがあると思ったらあんときのガキだったんだよ!間違いねぇ!!」


 盛大に唾を飛ばしながら男が続ける。また男だけあの日に戻ったようだ。


「それでどうしたのあなた?」

「もちろん捕まえてやろうと思って走っていったんだが、足音に気づいて目を開けやがってよ。男の方に投げ飛ばされちまったんだよチクショウ!」


 確かによく見ると服が汚れている。あの女子高生、なかなか頼りになる青年と一緒になったらしい。


「そのまま手ぇつないで走って消えやがったんだが、まだ近くにいるはずだ、お前らも探すの手伝えよな!ぜったいぶん殴る!」


 そう言い残すと男は身を翻して走っていった。だが投げられたダメージもあるのか少々足が遅い。これで闇雲に探し回ったところで捕まえられないだろう。


「どうするの?2人とも。私は流石にいかないけど、またおもしろいことになりそうねっ。」


 おばさんがニコニコして俺たちの顔を交互に見る。流石はうわさ好きのおばさんだ。自分も巻き込まれていたあの事件と違い、ほぼ完全な第3者となった今は楽しくてしょうがないのだろう。


「私は店のほうがありますので、この辺りで失礼させていただきます。ここで女子高生のお客様を捕まえても、店のためにはなりません。それよりも、店に戻って他のお客様のお相手をしなければ。という訳で失礼いたします。みなさまもまたのご来店を。」


 そう言い残して男とは逆方向、スーパーのある方へ店長は歩きだした。コツコツという規則正しい足音。伸びた背筋。こちらも相変わらずである。


「まもるちゃんはどうするの?」

「俺も、いきませんよ。それは交通課の仕事じゃありませんし。」


 つまらないわね、とでも言いたそうなおばさんに軽く会釈をして歩き出す。おばさんの家とは少し方向が違うので一緒に変える必要もない。朝家を出たのにもう夕方近くになってしまった。休暇を満喫するために急いで帰る、なんていうのは本末転倒だ。ゆっくりと帰ろう。


 どこかで鳥が鳴いている。姿は見えないし、種類もわからないがこの鳴き声は好きである。いろいろあったが、そのいろいろさえ終わってしまえば、いつもどおりの休暇である。


 最後にもう一度だけ今回の事件をぼーっと思い返してみる。犯人のうち1人は見事天まで逃げ切った。もう1人はどうなるだろう。無事逃げられるか、捕まるか。

 でもやっぱり、どうなるか俺にはわからない。


だってどう考えても、俺は探偵として役者不足なのだから。


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