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第11章

「そ、そんなことってありえるの!?そんな不思議な事件聞いたこともないわ。」


 信じられないという顔でおばさんが叫ぶ。それはおばさんの知っている事件がテレビドラマだけだからだろう、と言ってあげてもいいのだが、めんどくさいのでやめておく。しかし実際は犯人がこの中にいないことのほうが多いに決まっている。まぁ、「この中」っていうのも状況次第で曖昧な表現であるのだが。


「えっと、実は警察のほうでもそこそこ調べが進んでいまして。2年間ありましたからね。というか、事件から2ヶ月後にはだいたい全てのことが判明していたんです。」


 そう、警察は無能ではない。店長が店の売上に悩み、森田のおばさんが家事もそこそこに井戸端会議にいき、俺が路上駐車している車にステッカーを貼り、男が刑務所で臭い飯を食べている間に事件について調べていたのだ。


「ま、まもるちゃんが調べたってこと?」

「いえ、僕は交通顆ですので関わってはいません。ただ、各方面に知り合いはいますし、事件の当事者でもありましたから、操作の進展具合については随時教えてもらっていたんです。」


 驚くおばさんに事情を説明する。もちろん驚いているのはおばさんだけではない。男も、店長も、おばさんと同じように目を丸くしている。接客業なのでとっさの事態にも対応できるのだろう、男より先に目の大きさを通常時レベルに戻した店長が、相変わらず丁寧に質問してきた。


「やはり、警察の方々は我々とは違って、確実な根拠のもと真実にたどり着いたのでしょうか?」


 我々とは違って、という部分から、やはりおばさんや男の推理は適当なものだと思っていたことが読み取れる。店長らしからぬミスだ。やはり驚きが大きのだろう。


「完璧な証拠があるわけではありません。しかし、冷静に状況を考えれば、他の方法はなく、別の犯人はいないだろうという結論を出すことができました。実はそれに、みなさん、主に森田さんの推理は事件の核心に迫っているんですよ。」


 そう言っておばさんの方を見る。おばさんは一瞬怪訝そうな顔をしてこちらを見返してきたが、自分が褒められたと気づいて突然に偉そうになった。


「でしょう?でしょうね。ええそうでしょう。やっぱりイイ線いってると思ってたのよ。どの辺りがよかったの?」


 どの辺りがよかったかすら分かっていない人が、イイ線などと言うのは少しずるいと感じたがこの際いいだろう。


「犯人がお金を持ち去った方法。そして、そもそもなぜ女子高生が大人しく人質という役割を演じなかったのかという点についてです。実はこっちは少しだけ違うのですが。」


 そう、おばさんは思いつきで言ったのかもしれないが、かなり正しいことを言っていた。やはりサスペンスドラマは甘く見てはならない。ただのおしゃべり好きのおばさんにここまでの推理力を与えるのだから。話を続ける。


「まず犯人が2階からお金を持ち去った方法ですが、これはほぼ森田さんの言ったとおりです。窓から入口の前に落とす。その後外に出て回収する。そのまま落としてしまうと誰かに拾われてしまう可能性もあるので、店のダンボールにでも入れて落としたかもしれません。といっても、入口には朝顔も大量にあるので、だれかが通りかかったとしてもほぼ気づかれないでしょう。」

「あら、やっぱり正解だったのね。そうよねぇ、自信あったのよ。ええ、だって他に方法がないですからね。消去法よ消去法。このくらい威張るほどのことじゃないわねぇ。」


 自分の推理があたっていたと分かって威張り散らすおばさん。こうなるから言いたくなかったのだ。この推理に問題点があることにすら気づいていない。


「しかし、先程の話でそれは不可能だという結論になったのではないでしょうか。私と加藤様が犯人では無い以上、2階に上がることが出来た人間はいない、と。」


 店長がうつむき首をかしげながら尋ねてくる。そうである、それこそが浮かれたおばさんが完全に忘れている点である。流石は店長、よく聞いてくれた。


「はっ。もしや、もしや私以外の店の者でしょうか。」


 突然大きな音を聞いた時のようにびくっと顔を上げる店長。手を組み震わせながら言葉を続ける。


「佐藤君と坂本さんは私がバックルームから出てきた時にはすでにみなさんの輪の中にいましたが・・・実は2階にいっていて私より少し前に出てきたとか!?」

「あ、いやそれは違います。ご安心ください。」


 こちらが申し訳なくなるほど驚いた店長をなだめるためすぐに否定する。


「犯人は店員さんではありません。そもそもその方法で店員さんがやったならあんな狂言強盗を演じさせる必要はないですからね。あの強盗事件が起きている間にこっそり二階に忍び込んだ人がいたんですよ。そしてそれが森田さんの2つ目の正解、狂言強盗は注意を向けさせるため行われた、です。」

「うふふ。森田さんの正解、よ。」


 おばさんが俺の言葉を真似してくる。近年稀に見る不快レベルだ。絶対どういうことか理解していないだろうと言いたくなる。が、ぐっと堪える。こんなに言いたいことをぐっと堪えるのはやはり二年ぶり、あの事件以来である。こらえた言葉の代わりに続きの説明を吐き出すことにする。


「森田さんが注意を向けさせるため、と言ったのは狂言強盗が起こった事件だと印象づけさせて、単純な事件の真相を隠すため、という意味ですよね。でも実際注意を向けさせたかったのは事件のあと、捜査の段階ではありません。事件の最中に我々の注意をそらし、共犯者が事務所、金庫の鍵をこじ開け、そして出ていく時間を作るためです。そのために突然人質が犯人に反発し始めたのです。そうすれば時間が稼げるし、注目も集められますかね。」


 そう、事件は結構単純だったのである。あのややこしい狂言強盗もただのカモフラージュ。犯人が事務所に忍び込んでお金をとって出てくる。それだけの事件だったのだ。必要なスキルは多少のピッキング能力。


真相を聞いて全員沈黙している。店長は納得したというように頷いており、おばさんは首をかしげている。やはりミステリー好きには単純すぎるように感じられるのだろうか。そして男はというとまだ今ひとつ理解できていないのだろう。手のひらを逆の手の指で叩きながら視線をさまよわせている。男なりの考えるポーズなのだろうか。と、叩いていた指を手のひらが突然つかんだ。さらに俺の方をバッと向いて文句を言い始めた。


「じゃあ俺は注意を集めるためだけに使われたってことかよ!初めから期待なんてされてなかったのかよ。チクショー、ふざけんじゃねぇ、ああ、ふざけんじゃねぇよ!俺はやれば出来る子だぞ!!」


 なにやら、わかるようなわからないような方向に怒りを感じているようだ。もちろん唾もしっかり飛ばしている。しかしすでにようかんを食べ終えた俺の敵ではない。


「では、我々は完全に犯人たちの手のひらの上で踊らされていた、ということでございましょうか。強盗に入った加藤様はもちろん、対応をした私や、それに注目していたお客様方も。」


 店長が少しだけ悔しそうにぽつりと言った。


「確かにそうですね。でも、すべて計画通りだったわけではありません。犯人たちにとっても予想外のこともありました。それにはだいぶ苦労させられたようです。」


 そう、そうしてそのおかげで捜査は比較的スムーズに進んだのだ。


「それって、まもるちゃんの指摘のこと?ほら、あの加藤さんのお姉さんの娘だとしたら苗字が同じなのは逆におかしいっていう。」

「ああ、確かにあの時はあのガキ焦ってやがったな!へへ、いい気味だったぜ。」


おばさんの閃きを聞いて、怒っていた男が急に表情を緩ませた。忙しい男である。しかし、残念ながら。


「いえ、そうではありません。」


 俺はおばさんの言葉を否定する。


「だってほら、あれがなかったらあの女子高生は加藤さんの姪だってみんなが思い込んでたでしょ。でもそれじゃああの子も困るわけです。そうなると加藤さんはあの子を刺すことはできないって判断した俺があなたを取り押さえる可能性がありますから。まぁ、姪を刺す叔父は絶対にいないとは言い切れないですが。」


 実際、加藤さんがおかしな人物に見えたので、親戚同士だって判断しても不用意には動けなかったと思いますが。という言葉は省略して続ける。


「先程も言ったように、あの子の目的は時間を稼ぐこと、注意を集めること。この2つでしょう。付け足すとしたら我々を混乱させること、くらいですかね。だったらどっちが本当のことを言っているかわからない、という状況を作ったほうがいい。そうすれば我々は混乱するし不用意に動けない。だからもし僕があれに気付かなかったら、他に自分が姪ではないと疑われるようなことを言っていたかもしれません。言い間違えたふりでもして。

ところで、僕が苗字の点を指摘したとき、あの子が妙に焦りましたよね。あの瞬間、間違いなく全員が彼女に注目していました。」


 そしてそのあと起こったことは。


「そしてそのすぐあと、あの老人が現れましたよね。ゴミ袋を買いに来たという老人が。多分staff onlyの扉の向こうで様子を伺っていて、彼女に注目が集まったあの瞬間に出てきたのだと思います。」


 もちろん俺があのタイミングで苗字のことを指摘したのは偶然だ。二人が名乗った時点でおかしいと気づく可能性もあった。しかしそれでもあの子にとっては問題なかっただろう。順番が逆になるだけだ。自分が怪しいと思わせておいたところで、事前に調べた男についての情報を話せばいい。あの時のように、男の姉の名前を答えてもいいだろう。そうすると今度は男が怪しくなるし、男の姉の名前を答える瞬間は全員の注目を集められる。


 もっとも、店長があの扉から出てきたとき、男にはその姿が見えていなかった。つまり俺たち客、そして店員が振り返りさえしなければあの扉から出入りする姿は見られなかっただろう。念には念を入れて注目を集めた、というところだろう。もちろん、男から扉が見えない位置になったのも偶然ではないはずだ。少女が都合のいい場所で待機しておけば、あとからきた男は当然そこで少女を捕まえるだろう。


「まじかよ。」


 男が唖然としてつぶやく。


「当たっていると思います。もちろん、僕が指摘しなかったら場合に備えて、自分が怪しいと思わせる他のストーリーも用意していたでしょうね。」

「・・・ん?ていうか待て。あのじじい、グルだったっていうのか!?」


 いや、遅い。言った時点で食いついて欲しかった俺としては少し不服である。

まぁでも仕方がない。口にださなかっただけで店長とおばさんは言った時点で気づいていただろうし。


「でもあの耳の悪いじじいにそんなことができんのかよ。」

「老人を蔑んでいると痛い目に合いますよ。頭がいい人も予想外に運動できる人も多いんですから。というか。」


 というか現に痛い目にあっていますよね。とはさすがに言わないでおくか。

 しかしあの人は耳の悪い老人ではない。これは確かだ。


「あのおじいさん、耳が悪いふりをしていただけだと思います。都合の悪いことを無視するために。」


 あの時。待て、という男の声は聞こえていないようだった。あんなに叫んでいたのに。しかし、ゴミ袋の位置について話していた店長と森田のおばさんの声は聞き取れていたことになる。そのあとゴミ袋がある位置に真っ直ぐ進んでいったのだから。


 これはどう考えてもおかしい。聞こえないふりをしていたとしか思えない。

 女子高生に刃物が突きつけられている状況だったのだ。犯人に待てと言われて待たずに消えるのはおかしい。しかし、目が悪く犯行に気づいていない、耳が悪く犯人の声も聞こえていない、という状況なら店から出ていってもそれほどおかしくは思われない、という考えだったのだろう。長く店にはいたくなかったはずだ。ついでに言うといくら犯人の男をいくら無視したところで少女が刺されることもありえなかったのだから。


「しかし、なぜわざわざあのご老人は我々に姿を見せたのでしょうか。それこそ女子高生のお客様が注意をそらしているうちに店から出ていったらよかったでしょう。」

「そうね。確かにおかしいわね。それに、あのタイミングで出てきたからといって、あのおじいさんが犯人だって言い切ることはできないんじゃないかしら?」


 店長の疑問におばさんも同意しつつさらに疑問を付け足す。いいところに気づいている。どうやら2人とも先程まで驚いて沈黙していたがなんとか調子を取り戻したようだ。


「えっと、その2つを説明するのが、先ほど言った犯人にとっての予想外の出来事です。もともと犯人は、というかあのおじいさんは我々に姿を見られるつもりはなかったでしょう。お金を入口に落としているから一刻も早く回収しにいかなければ不安でしょうし。しかしそうはいかなくなった。」


 せっかくなのでここでタメて3人の顔を見回している。店長はまっすぐこちらを見ている、店長の親父さんも俺の親父と同じように、話を聞くときはしっかり相手の目を、と教えていたのかもしれない。森田のおばさんは身を乗り出して話を聞いている。うずうずしているようだ。恐らくサスペンスドラマの謎解きシーンを見る時もこのような体制なのだろう。男は今ひとつ話についてこれていないのか自信なさげな顔をしているが、しっかりとこちらを見ている。


「予想外の出来事。それは果物が散乱して道をふさいだ事です。」


 店長とおばさんがハッと口をあけ、納得したというように息を吸い込み吐き出す、という同じ動作をした。おもしろいなと思いながら話を続ける。


「そうです。そもそもあの老人が自分で言ったように入口から入ってきたのだとすれば、我々に後ろから近づくことはできないのです。初めにあの果物の道を通ろうとして加藤さんに見つかった人がいましたよね。普通の人でも通れない道を老人が通れるはずがありません。他の道を通って我々に近づいても、先に加藤さんに見つかるはずですからね。我々に後ろから近づくためには、staff onlyの扉かトイレから出てくるしかありません。トイレにいたなら入口から入ったと嘘をつく必要もありません。女性ならないとは言いきれせんが、おじいさんがトイレに言ったことを恥ずかしがるはずがありませんからね。」


 またしても沈黙。店長とおばさんは完全に納得し、男は理解するのを諦めたようだ。


「あ、さらに付け足すと、あの日お客さんは来ないはずなんです。周辺で聞き込みをして分かったんですが、あの日あの時間、事件が起こってからあのスーパーに言ったお客さんは全員、といっても6人だけだったのですが、お店は閉まっていたと証言しています。恐らくおじいさんが店に入る前に入口の看板を逆にしたんでしょう。」


 「お休みです、ごめんね」の看板をみた人々は、少し不審に思いはしたが、もともと不定休の店だったので、大人しく引き返したらしい。車を十分くらい走らせれば、別のスーパーもあるのだ。


「最後にあの老人の行動をまとめてみます。

まずは入口の側、朝顔の裏にでも隠れて待機。加藤さんに犯行開始を指示した14時より少し前に最後に店に入った客が、恐らく私が、店には言いた町後に入口の看板を裏返して店に入ってトイレに隠れる。それまでに誰かに見られていて後で調べられたとしても、財布を忘れたからその日は帰ったとでも言えばいい。見た人も事件の印象が強くて忘れる場合もあるでしょうが。そうして女子高生がこの強盗は狂言だ、と言って全員の注目を集めたタイミングで、トイレから出てstaff onlyの扉に入る。事務所、金庫の鍵をピッキングで開けてお金を盗み窓から落とす。その後一階に降りてこっそりstaff onlyのドアから出たあと、我々に話しかけて店から出てお金を回収するした。

 こんなところだと思います。ちなみに加藤さんに開放されなかった場合、女子高生は人質のフリを続け、店をでて適当なタイミングでおばさんに使ったあのスプレーを吹き付けて逃げ出すつもりだったと考えられます。加藤さんが一人で店からでていったのでその必要はなくなったのでしょうけど。」


 一気に話し終える。


「ピッキングできるなら夜入ればいいじゃないの、まったく人騒がせね。」


 少々楽しんでいたような気もするおばさんが呆れたように言う。だがそれは俺も気になった点だ。しかしそれはすぐに解決した。


「当店夜はSECOMしておりますので」


 店長が静かに答える。なるほど。それでは夜の犯行は無理だろう。


「じゃあなんであのジジイを逮捕しねーんだよ!!」


 先程まで黙っていた男が立ち上がり叫ぶ。犯行の流れが全て理解できたかどうかは別として、あの仙波のじいさんが犯人だったということは分かったのだろう。とするとこれは然の反応であろう。男はいっぱい食わされた被害者でもあるし。しかしその理由は実際に見てもらったほうがいいだろう。ここに来る直前に受けた電話の内容を思い出しながら、男にだけではなく、全員に尋ねる。


「みなさん。あさっての午前中、時間あります?」


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