第9話 成立しない勝利
「なら、その前に終わらせる。深層だ。行く」
ガルドの一言で、空気が切り替わった。
迷いがない。
さっきまでの“調整”じゃない。
これは決断だ。
「今からかよ」
ザックが顔をしかめる。
「準備くらいさせろ」
「時間がない」
ガルドは短く言う。
「管理局が動く前に入る」
「……強行だな」
イーリスが呟く。
でも否定はしない。
全員、分かっている。
ここで止まれば、終わる。
「こっちは?」
ジンがこちらを見る。
リゼとルナも同じだ。
「一緒に行く」
僕が答えると、ルナが笑った。
「でしょ」
「別行動の意味ないし」
リゼが静かに頷く。
「戦力はまとまっていた方がいいです」
「……」
ガルドは一瞬だけ迷った。
当然だ。
元パーティと新パーティ。
混ぜるのはリスクがある。
「問題ない」
僕は先に言う。
「混ぜる方が強い」
「根拠は」
「さっき見たでしょ」
短い返答。
ガルドは少しだけ息を吐いた。
「……分かった」
決まる。
その瞬間。
パーティが一つになる。
---
迷宮の入口は、夜でも人が多かった。
ただし、雰囲気が違う。
ざわついている。
「……深層、か」
ジンが呟く。
「久しぶりだな」
「余裕そうね」
ルナが笑う。
「余裕なわけあるかよ」
軽口。
でも、全員の足取りは少しだけ硬い。
「……レイン」
リゼが小さく呼ぶ。
「なに」
「大丈夫ですか」
「なにが」
「この人数」
視線が前を向いたまま。
でも、言いたいことは分かる。
人数が増えた。
ズレも増える。
「大丈夫じゃない」
「え?」
「だから調整する」
簡単な話だ。
リゼが少しだけ笑った。
「そうですね」
入口を抜ける。
空気が変わる。
湿り気。
静けさ。
音が、遠い。
「……行くぞ」
ガルドが前に出る。
「最初は俺が主導だ」
「うん」
僕が頷く。
「次、イーリス」
「分かってる」
「ザック、ルナは待つ」
「はいはい」
ルナが軽く返す。
「ジンは補助」
「了解」
形はできている。
問題は――
持つかどうか。
---
最初の敵は、小さかった。
岩鼠。
群れで来るタイプ。
「来るぞ!」
ジンが叫ぶ。
ガルドが前に出る。
大剣が振られる。
一撃。
通る。
「イーリス」
「詠唱中!」
火が走る。
後続を焼く。
「ザック」
「今だな!」
滑り込む。
ルナが続く。
完璧じゃない。
でも、形はできている。
崩れない。
止まる。
「……いいな」
ガルドが呟く。
「問題ない」
僕も答える。
でも。
「次」
短く言う。
「……何がだ」
「まだ浅い」
岩鼠は弱い。
調整の確認にはいい。
でも。
「深層はこんなもんじゃない」
「分かってるよ」
ザックが舌打ちする。
「行くぞ」
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少し進む。
敵の質が変わる。
足音が重くなる。
「……来る」
イーリスが呟く。
気配が違う。
大きい。
そして。
「二体……いや、三体か」
ジンが低く言う。
視界の奥。
影が動く。
「前、ガルド」
「任せろ!」
踏み込む。
今まで通り。
でも。
「……重い!」
剣が止まる。
硬い。
深層の個体。
力が違う。
「イーリス!」
「詠唱中!」
でも、遅い。
詠唱が間に合わない。
「ザック、まだ!」
「分かってる!」
止まる。
でも。
敵も止まらない。
「ルナ!」
「もう無理!」
ズレる。
ほんの一瞬。
でも、それで十分。
敵の腕が振られる。
ガルドの体勢が崩れる。
「……っ!」
崩れた。
「ジン!」
「行く!」
無理やり割り込む。
止める。
でも、遅い。
「……」
流れが切れた。
完全に。
「下がれ!」
ガルドが叫ぶ。
後退。
距離を取る。
止まる。
呼吸が荒い。
「……なんだ今の」
ザックが息を吐く。
「さっきまでできてただろ」
「さっきまでは“軽かった”」
僕は短く言う。
「今は違う」
「何が違うんだよ」
「余裕がない」
それだけ。
でも、それが全部。
「……」
全員が黙る。
分かっている。
でも、どうしようもない。
「……レイン」
ガルドが低く言う。
「どうする」
視線が集まる。
今、決めるのは僕だ。
少しだけ考える。
さっきと同じやり方じゃ通らない。
なら。
「順番、変える」
「は?」
「今度はイーリスから」
「なに言ってんだ」
ザックが眉をひそめる。
「前に出る前に削る」
「……」
イーリスが目を細める。
「……できる」
「ガルドは受けるだけ」
「受けるだけ?」
「うん」
「……面白ぇ」
ジンが笑う。
「やってみろよ」
ガルドが頷く。
「……いいだろう」
形を変える。
それが、答え。
「来るぞ!」
再び、影が動く。
「イーリス」
「任せて」
詠唱。
今度は先。
火が走る。
敵がわずかに止まる。
「ガルド」
「行く!」
受ける。
無理に押さない。
耐える。
「ザック」
「今だな!」
入る。
今度は通る。
「ルナ」
「遅いっての!」
笑いながら、斬る。
連続。
繋がる。
止まる。
「……」
静寂。
「……できたな」
ジンが呟く。
「できた」
僕も答える。
でも。
「……」
ガルドが眉をひそめる。
「なんだ」
「勝ったのに、楽じゃない」
正しい感想。
「それが深層」
僕は言う。
「成立はする。でも余裕がない」
「……」
ザックが舌打ちする。
「これ、長く持たねえぞ」
「持たない」
即答。
「じゃあどうすんだ」
少しだけ、間を置く。
「もっと変える」
「……まだ変えるのかよ」
「うん」
ここからが本番だ。
「次は、役割ごと変える」
その一言で。
全員の顔が変わった。
嫌な予感。
でも。
それが必要だ。
――そして。
その先で、もっと大きなズレが待っている。
「勝てたのに楽じゃない」
ここがこの作品のポイントです。
ただ強くなるだけじゃ通用しない領域に入りました。
ここからさらに一段、構造が変わります。
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次は、もっと大きな変化です。




