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追放された“無能支援役”、実はパーティ全体を最適化する最強の頭脳でした 〜気づかれなかった俺が抜けた途端、全部崩壊する〜  作者: 鷹宮ロイド


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第2話 壊れかけの理由

 壊れかけている。


 その言葉だけで、だいたいのことは想像がつく。

 問題は、どの程度壊れているかだ。


「場所、今からでも大丈夫ですか」


 銀灰色の髪の女――リゼはそう言って、すでに歩き出していた。

 迷う様子がない。僕が断る前提を考えていない歩き方だ。


「案内するつもりだったの?」

「断られたら、そのまま帰るつもりでした」

「今は?」

「断られないと思ってます」


 即答だった。


 根拠があるのか、ただの勘か。

 どちらにせよ、悪くない。


「名前、聞いていい?」

「リゼです。あなたは?」

「レイン」

「よろしくお願いします、レインさん」


 丁寧だけど、距離は近い。

 踏み込みが早いタイプだ。


 王都の裏通りをいくつか抜けて、さらに人通りの少ない区画へ入る。

 明かりが少なく、建物も古い。冒険者の拠点としては、あまりいい場所じゃない。


「ここ」


 リゼが立ち止まったのは、小さな二階建ての建物だった。

 看板はあるが、文字が半分剥げている。


 中から、怒鳴り声が聞こえた。


「だからそれは違うって言ってんだろ!」

「違わない! あんたが突っ込みすぎなんだよ!」

「だったらお前が前に出ろよ!」

「はあ!? 何で私が――」


 言い終わる前に、何かが倒れる音。

 木の椅子か、机か。


 リゼは少しだけ眉を寄せた。

 でも止まらない。


「これが、うちの現状です」


 うち、か。


 扉を開けると、酒場兼ギルドの小部屋みたいな空間が広がっていた。

 そして中央で、二人の冒険者が睨み合っている。


 一人は槍を持った男。細身だが動きは速そうだ。

 もう一人は短剣を腰に下げた女。こちらも軽装。


 どちらも、それなりに腕は立ちそうだ。

 ただ、呼吸が合っていない。


「……で、そいつ誰だよ」


 槍の男がこちらを見た。

 目つきが悪い。敵意というより、余裕がない目だ。


「助っ人です」

「は?」

「正確には、まだ交渉中ですけど」


 リゼは平然と言う。


 短剣の女が露骨に顔をしかめた。

「はあ? また人増やすの? これ以上ごちゃごちゃさせてどうすんのよ」


「ごちゃごちゃしてるのは人じゃなくて動きです」


 さらっと言い切る。


 空気が一瞬で冷えた。


「……てめえ、今なんつった」


 槍の男が一歩踏み出す。

 危ない距離だ。


 リゼは動かない。


「事実です」

「ふざけんなよ。こっちはちゃんと戦って――」

「戦えてません」


 被せた。


 強いな、この人。


 でも、強さの方向が違う。

 押し切るタイプじゃない。見えているものをそのまま言っているだけだ。


 だから余計に刺さる。


「……」


 槍の男は言葉に詰まった。

 怒りは消えていない。でも、反論が出てこない。


 短剣の女が舌打ちした。

「で? その助っ人とやらは何ができんの」


 視線がこちらに来る。


 期待はない。

 むしろ「どうせ役に立たない」という前提。


 見慣れた目だ。


「特別なことは何も」


 正直に答える。


「ただ、たぶん今よりはマシに動ける」


「はあ?」


 当然の反応。


 槍の男が笑った。

 嘲笑に近い。


「自信満々じゃねえか。戦えもしなさそうな見た目で」

「戦うのは苦手」

「じゃあ何しに来た」

「壊れてる理由を見に」


 数秒、沈黙。


 それから短剣の女が肩をすくめた。

「いいじゃん。どうせ今も壊れてるし。見てもらえば?」


「おい、ルナ」

「何よ。あんた、このまま続けて勝てると思ってんの?」


 槍の男――たぶん前衛役だろう――は黙った。


 勝てていないんだろう。

 それも、運が悪いとかじゃなく、もっと根本的なところで。


「……好きにしろ。ただし邪魔したらぶっ飛ばす」


「了解」


 リゼが一歩下がる。

 スペースができた。


 なるほど。試すつもりか。


「じゃあ、一回だけ模擬でいい?」

「は? ここで?」

「外でもいいけど、たぶん意味ないから」


 槍の男が舌打ちして、槍を構える。

 短剣の女――ルナも位置についた。


 距離、角度、床。

 ざっと見る。


 うん、分かりやすい。


「まず、そのままやってみて」


「指示じゃねえのかよ」

「先に見たい」


 始まった。


 槍が突き出される。

 速い。悪くない。

 でも、踏み込みが直線的すぎる。


 同時にルナが回り込む。

 連携のつもりだろうけど、タイミングが合っていない。


 槍の軌道とルナの侵入角が干渉している。

 結果、どちらも半歩ずつ無駄が出る。


 その無駄を埋めるために、さらに踏み込む。


 悪循環。


「そこまで」


 二人が止まる。


「何が問題か分かる?」

「知らねえよ」

「分かってたら苦労してない」


 正直でいい。


「じゃあ、一個だけ変える」


 僕は床に落ちていたコップを足で軽く動かした。

 槍の男の立ち位置から、ほんの少しだけ右へ。


「ここに立って」

「なんでだよ」

「いいから」


 不満そうにしながらも、動く。

 その一歩で、通路が広がった。


「ルナは逆側に半歩」


「……それだけ?」

「うん」


 短い沈黙。


「やってみて」


 再開。


 今度は槍が壁に当たらない。

 軌道が素直に通る。


 ルナの侵入も、槍と干渉しない。

 そのまま背後を取れる。


 動きが、一拍分軽くなる。


「……あ?」


 槍の男が思わず声を漏らした。

 ルナも同じ顔をしている。


 たったそれだけ。


 でも、それだけで、二人の“戦い方”が変わった。


「なんで……」


「さっきは、同じ場所を取り合ってた」


 簡単な話だ。


「前に出る人が二人いると、どっちも遅くなる」

「……」

「役割じゃなくて、位置の問題」


 槍の男が無言で何度か動きを繰り返す。

 さっきより、明らかに滑らかだ。


 ルナも、動きながらこちらを見た。


「ねえ」

「なに」

「これ、ずっと分かってた?」

「見れば分かる」

「なんで今まで誰も言わなかったのよ」


 その質問には、少しだけ考えた。


「たぶん、見てる場所が違うから」


 強い人ほど、自分の動きを見る。

 うまくいかない時も、自分のせいだと思う。


 でも、全体を見る人は少ない。


 必要とされないから。


「……」


 ルナは何か言いかけて、やめた。


 槍の男がこちらを見た。

 さっきとは違う目だ。


 警戒が、興味に変わっている。


「お前、何者だ」

「さっき言ったとおり」

「役立たずの支援職、ねえ」


 言葉は皮肉だけど、声は違う。


 リゼが小さく息を吐いた。


「どうですか」

「……少なくとも、邪魔ではねえな」

「それは良かった」


 リゼが僕を見る。


「正式にお願いしてもいいですか」

「何を?」

「このパーティーを、壊れない形にしてください」


 壊れない形。


 面白い言い方だ。


 普通は「強くしてほしい」とか「勝てるように」とか言う。

 壊れない、というのは、もっと手前の話だ。


「期間は?」

「とりあえず一週間」

「報酬は?」

「今は少ないです。でも、結果が出れば増やします」


 正直だ。


 悪くない。


「一つだけ条件」

「はい」

「言ったこと、ちゃんと聞くこと」


 槍の男が顔をしかめる。

「命令かよ」

「提案」

「変わんねえだろ」

「変わるよ。拒否できるから」


 少し考えて、彼は舌打ちした。

「……分かったよ」


 ルナも肩をすくめる。

「まあ、さっきのが偶然じゃないなら、試す価値はある」


 リゼが小さく笑った。


「決まりですね」


 その言葉で、何かが動いた。


 大げさな変化じゃない。

 でも確実に、さっきまでとは違う流れができている。


 僕はその流れを、少しだけ整える。


「じゃあ、まず一つ」

「なんだよ」

「この部屋、狭い」

「は?」

「家具、全部壁際に寄せて」


「……は?」


 ぽかんとする三人。


 でも、たぶんこれが一番効く。


 戦い方の前に、環境が噛み合っていない。


 そういうことは、意外と多い。


 椅子を持ち上げながら、僕は思った。


 壊れかけている理由は、だいたい単純だ。


 ただ、それを誰も見ていないだけで。


 ――そして。


 それを見てしまう人間は、あまり歓迎されない。


 少なくとも、前の場所ではそうだった。


 ここは、どうだろうか。

「強くなる」より先に、「噛み合う」かどうか。


レインのやっていることは地味ですが、少しずつ結果が変わり始めています。

ただ、このまま素直にうまくいくかというと……たぶん、そうでもありません。


次はもう少しだけ、“壊れている理由”の奥に踏み込みます。

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