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8.5話 魂の証

9話の前に少しだけ!

事件の起きないほのぼの回です。


アルセイアに辿り着いたばかりの、

ほんのひととき。


レイとサラの日常です。

アルセイアの門をくぐったとき、俺は思った。


――なんだここ。


壁は高く、道はまっすぐで、人が生きてる。


マオは呼び止められた。


「ちょっと報告してくるね」


鎧の背中が人混みに消える。


俺とサラは取り残された。


腹が鳴った。


通りの奥から、焼けた肉の匂いが流れてくる。


台の前に人が集まっているのが見えた。


俺は迷わず、その横をすり抜けようとした。


腕を掴まれる。


「ちょっと!」


「なんだよ」


「並ぶの」


「は?」


サラは指で示す。


台の前に、一本の列ができていた。


「順番に待つの」


意味がわからない。


「空いてるだろ」


「違うでしょ!」


小声で怒られる。


「門のところでも並んだじゃない!」


……そういえば。


門の前でも、みんな一定の間隔で立っていた。


あれは、ああいう決まりだったのか。


俺は渋々、最後尾に立った。


誰も押してこない。


割り込みもしない。


後ろに立つ男は、俺の袋に目もくれない。


変な街だ。


「一本、2ゴールドな!」


その言葉の意味が、うまく頭に馴染まない。


食い物に値段がついている。

これがこの街のやり方らしい。


俺は懐から金貨を出し、男に差し出した。


男は受け取り、串を一本、俺に渡す。


「ありがとよ」


礼を言われた。


俺は何も返さず、肉にかぶりつく。


熱い。


歯が沈み、汁が溢れる。


塩と、草の苦味が抜ける。


喉に落ちる。


腹の奥が、じんわり温まる。


「……うめぇ」


声が漏れた。


「お前は食わねぇの?」


「ひと口ちょうだい!」


言うなり、サラは俺の持っている串にかじりついた。


「おい、お前!」


慌てて串を引く。


だが、肉はもうサラの口の中だ。


「んー……おいしい」


口元を押さえて笑う。


「並んだ甲斐あったね」


俺は残りの肉を頬張った。


袋の金は、そのままだ。


少し歩いたところで、サラが立ち止まった。


看板を見上げている。


「読めるのか」


「うん」


振り返る。


「レイは?」


俺は黙る。


読めるわけがない。


サラはしゃがみ込み、地面に指で線を描いた。


「これ、“れ”」


俺を見る。


「レイの“れ”」


「いらねぇよ」


「いるよ」


即答だった。


「名前はね、魂の証なんだよ」


俺は渋々しゃがむ。


真似して書く。


歪む。

曲がる。


「下手」


「うるせぇ」


もう一度。


今度は、少しましになる。


三回目で、形になった。


サラが、嬉しそうに頷く。


俺は立ち上がる。


「腹減ったら食う。それだけでいい」


サラは首を振る。


「違うよ」


「レイはね、ちゃんと“自分の名前”がある人だよ」


俺は眉をひそめる。


「……だからなんだ」


「だから、大事にしなきゃ」


サラは笑う。


「レイって書けるってことはさ、レイはレイなんだよ」


意味は、わからない。


でも、地面に残った歪な文字を、俺はもう一度だけ見た。


腹は満たされた。


金もまだある。


俺は初めて、生きている実感が湧いた。


――悪くない街だ。

9話投稿は2/16(月)です!


心してお待ちください(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)

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