ホットケーキを焼くのがうまい妹に全てを譲ってきた私は妹の計画に乗せられる
ホットケーキを焼くコツは焦らず、じっくり、丁寧に。この計画だって同じ。
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まさか婚約者まで妹のミウに譲ることになるなんて。
(なぜ、私はいつも譲る側なの?)
トントン。
「お姉様、ホットケーキが焼けましたわ。」
「ありがと。」
(これは詫びのつもり?舐めないでよ。)
「不味いの?」
「美味しいわ……。」
(でも許さない!)
「婚約の件、お姉様は当然譲ってくださると思ったわ。」
(何が当然よ!)
だが、両親の決定だ。覆せない。
「あら、またそんなダサい髪飾りをお召しなの?」
嫌味ばかり。髪飾りは婚約者のキセナ様からの贈物なのに。私は唇を噛んだ。
「来週の婚約式。楽しみね。」
悪びれなく微笑んでミウは去っていった。私は悔しくて泣いた。
婚約式当日。
会場にはミウと談笑するキセナの姿。嫌になる。
「そろそろ始めますぞ。ミウ、キセナ殿。皆の前へ。」
父が言った。
ミウとキセナが頷く。そしてなぜか、2人は私の両側に立ち腕をとり、前へ出させた。
「?!」
「皆さま!本日は姉のモネとキセナ様の婚約式にお越しくださり、誠にありがとうございます。」
「私、キセナ・エアは、モネと婚約します。」
「これはどういうだ!ミウ?キセナ殿!」
血相を変えた両親がミウに迫る。
「条件よしの美男子だ。ミウ、お前にこそ相応しい!」
「いいえ、私、結婚する相手は自分で決めましたわ。ヒスイ領のイザキ様。」
「あ、あの宝石鉱山持ちの……?」
父は膝から崩れた。
「でも、皆様にはミウとキセナの婚約と伝えて……。」と母は叫ぶ。
「案内状なら事前にすり替えましたわ。」
「はぁー?!」
両親の気の抜けた声に、ミウは高らかに笑った。
呆然とする私にミウは言った。
「婚約者を譲ってもらうわけないじゃない。」
「で、でも当然って……。」
「当然譲りそうって話ですわ!」
「私のことバカにしてたんじゃ……。」
「似合わないものを似合わないと言っただけよ。」
「!」
「あなたの趣味のせいよ!お姉様に毎回ダサい格好させて!!」
ミウはキセナを怒鳴った。
「僕は似合うと思ったんだ。モネ、ミウはいつも君のことを想っていたよ。」
「当然ですわ!ホットケーキだってお姉様の笑顔のために焼いていたのよ!いつも顰め面なさるけど……。」
「キセナ様も、お姉様を不安にさせないように、もっと愛を伝えるべきでしたわっ!」
再び怒鳴られるキセナ。
その様子に私は心から笑った。
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久しぶりのお姉様の笑顔。入念にサプライズを準備した甲斐があったわ。




