第9話「追及」
マリアンネの目は冷たかった。
「説明してもらえるかしら」
彼女は扉を閉め、私たちに近づいてきた。
「クラリッサ様が毎週このゲームに参加している。死んでも生き返った。魔法で記憶を保持している。メイドとして働いている。全部本当なの?」
「本当よ」
ユーリアが答えた。
「信じられないなら、それでもいいわ。でも、私が嘘をつく理由がある?」
「ないわね」
マリアンネは、認めた。
「だからこそ、もっと詳しく聞きたいの」
彼女の声が強くなった。
「クララというのは、クラリッサ様のメイドとしての名前なのよね。このゲームにも参加しているはず。誰がクララなの」
私とユーリアは、顔を見合わせた。
「わからないわ」
私は、正直に答えた。
「瞳の色が同じ人はいた。ベルタさん。でも髪の色が違う。変装しているのかもしれないけれど、確証がない」
「冊子はどうだったの」
マリアンネが尋ねた。
「クララの冊子は、あなたたちと同じように厚かった?」
私は、首を横に振った。
「いいえ。私とユーリアさん以外の冊子は、みんな薄かったわ」
「つまり、クララは普通の冊子を持っているということね」
マリアンネは、腕を組んだ。
「考えてみて。クラリッサ様は毎週参加している。魔法で記憶を保持している。つまり、脱出口の場所も、罠の位置も、謎解きの答えも、全部覚えているはずよ」
確かにそうだ。クラリッサには【主催者からの助言】など必要ない。すべて自分の記憶で知っているのだから。
「でも、おかしいわね」
ユーリアが呟いた。
「クラリッサ様の手紙には、隠しボーナスの場所が書いてあった。宝箱の場所よ。私の冊子には載っていなかった情報」
「私の冊子には載っていたわ」
私は、言った。
「【主催者からの助言】に、ボーナスの宝箱の場所が3つ書いてあった。2階東側の書斎の暖炉の裏、3階北側の寝室のベッドの下、地下貯蔵庫の最奥の樽の中」
「クラリッサ様の手紙に書いてあった場所は違ったわ」
ユーリアが言った。
「3階の塔の最上部、地下の隠し部屋、庭園の噴水の底。冊子に載っていない場所よ」
「つまり、隠しボーナスは6つ以上あるということね」
マリアンネは、眉をひそめた。
「クラリッサ様は、何度も参加しているうちにそれを見つけたのかしら」
「おそらく」
私は、頷いた。
「でも、だとすると……」
マリアンネの目が鋭くなった。
「クララは、他の参加者からボーナスを奪っている可能性があるわね」
「奪う?」
「宝箱の場所を知っているのはクララだけ。他の参加者が見つける前に、先に回収しているかもしれない。毎週参加しているなら、何度もそれを繰り返せる」
私は、考え込んだ。
クラリッサがボーナスを独占している。メイドごっこと小遣い稼ぎ。ユーリアは、そう言っていた。小遣い稼ぎというのは、このことだったのか。
「クララが誰なのか、確かめる方法はないの」
マリアンネが苛立たしげに言った。
「ゲームのために与えられる名前は、毎回ランダムなのよね。クララという名前で参加しているとは限らない」
「そうね」
ユーリアが頷いた。
「今回のゲームでは、誰もクララという名前ではないわ」
「でも」
私は、思いついた。
「クララと呼びかければ、反応するかもしれない」
「呼びかける?」
「メイドとして何年も働いているなら、その名前に慣れているはず。突然呼ばれたら、無意識に振り向くかもしれないわ」
マリアンネは少し考えて、頷いた。
「試してみる価値はあるわね」
「でも、どうやって自然に呼びかけるの」
ユーリアが尋ねた。
「いきなりクララと叫んだら、怪しまれるわ」
「混乱した状況を作ればいいのよ」
マリアンネが言った。
「誰かを呼ぶふりをして、間違えたと言えばいい。このゲームでは全員が偽名を使っているのだから、名前を間違えても不自然ではないわ」
私は、頷いた。
「わかったわ。機会を見つけて、試してみましょう」
「それと」
マリアンネが私を見た。
「さっきの話、紙に書けば記憶を残せるかもしれないと言っていたわね」
「ええ」
「私も書いておくわ。クラリッサ様のこと、クララのこと、全部」
マリアンネの声には決意があった。
「脱出して記憶を失っても、紙さえあれば思い出せる。そうすれば、クラリッサ様に問い詰めることができるわ」
彼女の目には怒りがあった。解雇されたこと、このゲームに送り込まれたこと、その恨みを忘れたくないのだろう。
「時間がないわ」
ユーリアが言った。
「最初の投票まで、あと1時間くらいよ。広間に戻りましょう」
私たちは、書斎を出た。
廊下を歩きながら、私は考えていた。
クララは誰なのか。ベルタなのか、それとも別の誰かなのか。
そして、クラリッサは何を考えているのか。
友人だと思っていた。没落しても変わらず接してくれた、大切な幼馴染だと。
でも今、彼女のことがわからなくなっていた。
メイドごっこ。小遣い稼ぎ。死亡遊戯への参加。マリアンネの解雇。
すべてが繋がっているような気がする。けれど、その全体像が見えない。
広間に戻ると、他の参加者たちが待っていた。カティアが苛立たしげに腕を組んでいる。ドーラが不安そうに周囲を見回している。フリーダは椅子に座り、震えている。
「遅かったじゃないか」
カティアが言った。
「何をしていたんだ」
「迷っていたの」
私は、答えた。
「この屋敷、複雑だから」
カティアは鼻を鳴らしたが、それ以上追及しなかった。
私は、さりげなく参加者たちを見回した。
アンナ、ベルタ、カティア、ドーラ、エルザ、ユーリア、フリーダ、ヒルダ、イルマ。そして私。
この中に、クララがいる。
機会を見つけて、呼びかけなければ。




