第22話「2回目の投票」
鐘の音が消えると、広間に沈黙が落ちた。
「投票の前に、いくつかお知らせがあります。参加者のうち3名が、すでにゲームから離脱しています。2名は脱出に成功しました。もう1名は死亡しました」
3名。おそらくエルザ、ベルタ、フリーダであるだろう。
「死亡した者の名前は、フリーダです」
フリーダ。最初の投票で消えた少女。怯えた目をしていた彼女。
「脱出した者の名前は、エルザとベルタです」
ベルタという名前を聞いて、私は息を呑んだ。
ベルタが脱出している。つまり、ベルタ——クララは『真なる聖女』の力で生き返って、脱出したのだ。
「ベルタが脱出しただと?」
カティアが眉をひそめた。
「あいつは死んだんじゃなかったのか」
「死亡したのはフリーダだけだと言っていたわ」
アンナが答えた。
「ベルタは……脱出したということね」
「おかしいだろう。あいつがいつ脱出したんだ」
「わからないわ。でも、そう言っている」
カティアは納得していない様子だったが、それ以上追及する時間はなかった。
「脱出した者は、投票の対象外となります。これは、脱出した時点でゲームから離脱したと見なされるためです。また、死亡した者も投票の対象外です。存在しなかったことになった者に、票を入れることはできません」
女性が淡々と説明を続ける。
「では、投票を開始します。皆様の前に投票用紙が現れます」
魔法で、私たちの手元に紙が現れた。
投票用紙を見る。7つの名前が書かれていた。アンナ、カティア、ドーラ、ヒルダ 、イルマ、セラ、ユーリア。
ベルタ、エルザ、フリーダの名前はなかった。
「投票用紙に記載された名前から、1名を選んで丸をつけてください。投票は匿名です。5分以内に投票を済ませてください」
私は投票用紙を見つめた。
自分に入れるべきだ。冊子にはそう書いてあった。票が割れれば、自分に入れておけば最多得票を避けやすい。
けれど、前回もそうしたはずだ。私も、ユーリアも、他の参加者たちも、全員が自分に入れたと言っていた。なのに、フリーダは3票で死んだ。
誰かが嘘をついているのか。それとも——。考えている時間はなかった。
私は、自分の名前——セラに丸をつけた。
投票用紙を折りたたみ、広間の中央に置かれた箱に入れる。
他の参加者たちも、次々と投票を済ませていく。
アンナが静かに箱に紙を入れる。カティアが乱暴に投げ込む。ドーラがおずおずと近づく。ヒルダが力なく歩いていく。イルマが笑顔で投票する。ユーリアが最後に箱に紙を入れた。
5分が経った。
「投票を締め切ります」
女性の声が響いた。
「集計を行います。少々お待ちください」
沈黙が広間を満たした。誰も口を開かない。前回と同じだ。ただ、箱を見つめている。
心臓が早鳴っている。次は誰が死ぬのか。私かもしれない。ユーリアかもしれない。
「集計が完了しました」
女性が告げた。
「最多得票者は、カティアです。3票」
カティアの顔が強張った。
「何だと……嘘だ……俺が……」
「カティア、あなたはこのゲームから脱落します」
「待て! 俺は自分に入れたんだぞ! 誰だ、俺に入れた奴は!」
カティアが叫んだ。広間を見回し、全員を睨みつける。
「お前らのうちの誰かが、俺を殺したんだ! 誰だ!」
誰も答えなかった。
「答えろ! お前か! それともお前か!」
カティアがアンナとドーラを指差した。2人は、黙って首を横に振った。
「くそっ……くそっ……」
カティアの体が光に包まれ始めた。
「俺は……俺は死にたくない……」
光が強くなる。カティアの姿が薄れていく。
「覚えてろ……お前ら……」
それが、最後の言葉だった。
光が消えると、カティアはいなくなっていた。椅子だけが残されている。まるで最初から誰も座っていなかったかのように。
カティアは、存在しなかったことになった。
広間に沈黙が落ちた。
「また3票……」
ドーラが震える声で言った。
「前回と同じ……」
「誰がカティアさんに入れたの?」
アンナが全員を見回した。
「私は自分に入れたわ」
「私も」
ドーラが頷いた。
「私も……」
ヒルダが力なく言った。
「私もです」
イルマが微笑んだ。
「私も自分に入れたわ」
私は、言った。
「私も」
ユーリアも答えた。
また、全員が自分に入れたと言っている。なのに、カティアは3票で死んだ。
前回と同じだ。
誰かが嘘をついている。あるいは、私たちの知らない誰かが投票に参加している。
「次の投票は2時間後です。脱出口を目指して、ゲームを続けてください」
女性の声が消えた。
残されたのは6人。アンナ、ドーラ、ヒルダ、イルマ、ユーリア、そして私。
誰も動かなかった。誰も口を開かなかった。疑心暗鬼が、さらに深まっていた。




