第21話「疑心」
広間に入ると、他の参加者たちがすでに集まっていた。
アンナとドーラが隅で話している。カティアは、壁にもたれて腕を組んでいる。ヒルダは椅子に座り、虚ろな目で床を見つめている。
「遅かったな」
カティアが私たちを睨んだ。
「どこにいた?」
「2階で休んでいたの」
私は、答えた。嘘ではない。
「休憩だと? こんなときに呑気なもんだ」
「疲れていたのよ。少し眠らないと、動けなかった」
カティアは鼻を鳴らしたが、それ以上は追及しなかった。
「ベルタとエルザは戻ってこないのか」
「戻ってこないわ」
アンナが言った。
「ベルタは死んだ。エルザは脱出した。もう私たちとは関係ない」
「脱出口はどこなんだ?」
「わからないわ。探したけれど、見つからなかった」
アンナの声には疲労が滲んでいた。彼女も探索で疲れているのだろう。
「誰か、何か見つけた者はいないのか?」
カティアが全員を見回した。
誰も答えない。私も黙っていた。脱出口の場所は知っている。けれど、言えなかった。
「役立たずばかりだな」
カティアが吐き捨てた。
「このままじゃ、全員死ぬぞ」
「争っても仕方ないわ」
ドーラが小さく言った。
「協力しないと……」
「協力?」
カティアがドーラを睨んだ。
「さっきも言っただろう。この中に人殺しがいるんだ。フリーダを殺した奴が。そいつと協力しろってのか」
ドーラは、俯いた。何も言えないようだった。
「私は自分に入れた」
アンナが静かに言った。
「私もだ」
カティアが答えた。
「私も……」
ヒルダが力なく呟いた。
「私もです」
ドーラが頷いた。全員の視線が、私とユーリアに向いた。
「私も自分に入れたわ」
私は、言った。
「私も」
ユーリアも答えた。
イルマは、何も言わなかった。ただ、微笑んでいるだけだった。
「お前はどうなんだ?」
カティアがイルマを睨んだ。
「私ですか?」
イルマは、首を傾げた。
「私も自分に入れましたよ」
「本当か」
「本当ですよ。嘘をついても仕方ないでしょう?」
イルマは、笑った。その笑顔が、私には不気味に見えた。
全員が自分に入れたと言っている。以前聞いた時も同じだった。なのに、フリーダは3票で死んだ。
誰かが嘘をついている。あるいは私たちの知らない誰かが、投票に参加している。
そんな考えが頭をよぎった。馬鹿げている。参加者は10人だったはずだ。今は7人。ベルタが死に、エルザが脱出し、フリーダが投票で消えた。
それ以外に、誰かいるというのか。
「次の投票で、また誰かが死ぬ」
ヒルダが呟いた。
「嫌だわ……もう嫌……」
「泣き言を言うな」
カティアが厳しく言った。
「生き残りたいなら、自分で何とかしろ」
「どうすればいいのよ……」
ヒルダの声が震えていた。
広間に重い空気が漂っていた。疲労と恐怖と疑心。全員が全員を疑っている。誰も信用できない。
ユーリアだけは信用できる気がした。
私は、ユーリアを見た。彼女も同じことを考えているようだった。目が合うと、小さく頷いた。
私たちだけが、脱出口の場所を知っている。
けれど、それを言えば、どうなるか。
殺し合いが始まるかもしれない。狭い通路で、背後から刺されるかもしれない。
残念ながら、黙っているしかなかった。
鐘の音が響いた。低く、重い音。3回。
「皆様、2回目の投票の時間です」
声が広間に響き渡った。2回目の投票が、始まる。




