第18話「休憩」
2階を歩きながら、私は疲労を感じていた。
ゲームが始まってから、どれくらい経っただろう。緊張の連続で、体が重い。ここ数日、ろくに食事もしていなかった。クラリッサの手紙に書いてあった通りだ。
「セラさん、顔色が悪いわ」
ユーリアが心配そうに言った。
「少し休んだ方がいいんじゃない?」
「そうね……」
否定できなかった。このまま動き続けたら、倒れてしまうかもしれない。
「どこか休める場所を探しましょう」
私たちは、2階の廊下を進んだ。
いくつかの部屋を覗いてみたが、どれも埃っぽく、荒れていた。蜘蛛の巣が張った天蓋付きのベッド。カビの生えたカーテン。割れた鏡。長い間使われていない部屋ばかりだ。
「この屋敷、綺麗な部屋はないのかしら」
ユーリアがため息をついた。
「もう少し探してみましょう」
廊下の奥へと進む。突き当たりに、少し大きめの扉があった。
「ここはどうかしら」
ユーリアが扉を開けた。
中は寝室だった。他の部屋と違って、綺麗に整えられている。
2つのベッドが並んでおり、どちらにも白いシーツが掛けられていた。窓際には小さなテーブルと椅子が2脚ある。燭台に火は灯っていないが、窓から差し込む月明かりで部屋の様子は見えた。
「ここなら休めそうね」
私たちは部屋に入り、扉を閉めた。念のため、内側から鍵をかける。
「2回目の投票まで、あとどれくらい?」
「80分くらいだと思うわ」
ユーリアは、窓の外を見た。
「50分くらい休憩しましょう。25分ずつ交代で見張りをすれば、安全よ」
「そうね」
私は、ユーリアの提案に頷いた。
「私が先に見張るわ。ユーリアさんは先に休んで」
「いいの?」
「いいわ。あなたも疲れているでしょう」
ユーリアは少し躊躇ったが、やがて奥のベッドに腰を下ろした。靴を脱ぎ、シーツの上に横になる。
「25分経ったら、起こしてね」
「わかったわ」
「何かあったら、すぐに起こして。絶対よ」
「ええ」
ユーリアは、目を閉じた。しばらくすると、寝息が聞こえてきた。よほど疲れていたのだろう。
私は椅子に座り、扉を見張った。
部屋は静かだった。廊下からも物音は聞こえない。他の参加者たちは、別の場所を探索しているのだろう。
時間が経つにつれて、瞼が重くなってきた。
駄目だ。寝てはいけない。
何度も自分に言い聞かせた。けれど、疲労が限界に達していた。数日間の睡眠不足、食事不足、そして極度の緊張。体が休息を求めていた。
椅子の背もたれに体を預ける。少しだけ楽な姿勢を取ろうとした。
瞼が、また重くなる。
いけない。寝たら、見張りができない。
私は、立ち上がった。歩けば眠気が覚めるかもしれない。部屋の中を数歩歩く。けれど、足がふらついた。
ベッドが目に入った。もう1つのベッド。白いシーツ。柔らかそうな枕。
少しだけ。少しだけ横になるだけ。目は閉じない。ただ、体を休めるだけ。
そう自分に言い聞かせて、私はベッドに腰を下ろした。そのまま、横になる。
天井を見上げた。薄暗い天井。月明かりが、かすかに模様を作っている。
あと少しだけ。目を閉じるだけ。すぐに起きる。
そう思った瞬間、意識が遠のいた。
ごめんね、ユーリアさん。
私は、眠りに落ちていた。




