第15話「追跡」
広間を出て、私たちは廊下の陰に身を潜めた。
「イルマを追いましょう」
ユーリアが囁いた。
「あの子、何か知っているはずよ」
私も同じことを考えていた。イルマの落ち着きは異常だった。
何かを隠している。それを確かめたかった。
しばらく待っていると、イルマが広間から出てきた。きょろきょろと周囲を見回してから、廊下の奥へと歩き始めた。
私たちは、距離を取りながら、彼女の後を追った。
イルマは、迷いなく進んでいた。まるで、この屋敷の構造を知っているかのように。
角を曲がり、階段を上り、3階へと向かっていく。
「3階……」
私は、冊子の内容を思い出した。3階北側の寝室のベッドの下に宝箱がある。
クラリッサの手紙にも、3階の塔の最上部に宝箱があると書いてあった。
けれど、イルマが向かっているのはそのどちらでもなかった。
3階の東側。私たちの冊子にも、クラリッサの手紙にも記載されていない場所。
イルマは、廊下の突き当たりにある小さな部屋に入っていった。
私とユーリアは、扉の陰からそっと中を覗いた。
物置のような部屋だった。古い家具や木箱が積み上げられている。埃っぽい空気が鼻をつく。
イルマは、部屋の奥へと進み、壁際に置かれた古いタンスの前でしゃがみ込んだ。タンスの下に手を伸ばし、何かを探っている。
「ない……」
イルマの声が聞こえた。
「もう取られてる。クララったら、早いなあ」
クララ。イルマは、その名前を知っていた。しかも、親しげな口調で。
「仕方ないか」
イルマは立ち上がり、埃を払った。
「次を確認しよう」
彼女は、部屋を出た。私たちは、慌てて廊下の角に隠れた。
イルマは、反対方向へと歩いていく。
「今の、聞いた?」
ユーリアが囁いた。
「ええ。イルマはクララを知っている。しかも、宝箱の場所も」
「私たちの冊子に載っていない宝箱だったわ」
「つまり、イルマは私たちより多くの情報を持っているということね」
私たちは、再びイルマを追った。今度は3階の北側へと向かっていた。
私の冊子に書いてあった場所。3階北側の寝室、ベッドの下。
イルマは、寝室に入った。私たちは、廊下で待った。
しばらくして、イルマが出てきた。手には何も持っていない。
「セラさん達の分は、まだあるみたい」
彼女は、独り言のように呟いた。
「回収しないでおこう。セラさん達に悪いし」
私は、息を呑んだ。イルマは、その宝箱が私たちのために用意されたものだと知っている。
「次はユーリアさんの分」
イルマは、歩き出した。
私たちは、顔を見合わせた。ユーリアの分の宝箱。クラリッサの手紙に書いてあった場所だろうか。
イルマは、3階の塔へと向かった。螺旋階段を上り、最上部へ。私たちは、距離を取りながら追いかけた。
塔の最上部は、小さな円形の部屋だった。天窓から月明かりが差し込んでいる。
イルマは、天窓の裏を調べていた。
「こっちもまだある」
彼女は、呟いた。
「ユーリアさんの分。これも回収しないでおこう」
イルマは、手ぶらのまま、部屋を出た。
私たちは、塔の階段の陰に隠れた。イルマが通り過ぎるのを待つ。
彼女の足音が遠ざかっていく。
「どういうこと……」
ユーリアが呟いた。
「イルマは宝箱の場所を知っていた。私たちの分だと知っていた。でも、回収しなかった」
「回収しないでおこう、と言っていたわね」
「なぜ?」
私にもわからなかった。
イルマは何者なのか。なぜ宝箱の場所を知っているのか。なぜクララの名前を知っているのか。なぜ私たちの分を回収しなかったのか。
疑問ばかりが増えていく。
「宝箱を確認しましょう」
私は、言った。
「イルマが回収しなかったなら、まだあるはずよ」
私たちはまず、3階北側の寝室に向かった。
古い寝室だった。大きなベッドが部屋の中央に置かれている。私はベッドの下に手を伸ばした。
指先に、何か硬いものが触れた。
引っ張り出すと、小さな木箱だった。蓋を開けると、中には鍵が入っていた。
私はすでにクララから4つの鍵を受け取っている。これで5つ目だ。
「次は、塔の天窓ね」
私たちは塔の最上部に戻った。天窓の裏を調べると、同じような木箱があった。中にはやはり鍵が入っていた。
「これで6つね」
ユーリアが言った。
「脱出するとき、金貨に変換されるのよね」
「クララがそう言っていたわ」
私は、鍵をポケットにしまった。
イルマのことが気になった。彼女は最初の宝箱がクララに取られていたと言っていた。つまり、クララは私たちの冊子にも手紙にも書いていない宝箱を回収したということだ。
どれだけの宝箱があるのだろう。そして、イルマはなぜそれを知っているのだろう。
「そろそろ戻りましょう」
ユーリアが言った。
「あまり長く離れていると、怪しまれるわ」
私は、頷いた。
広間に戻る途中、私は考えていた。
イルマは私たちの宝箱を回収しなかった。私たちに悪いから、と言っていた。
敵意はないように見える。けれど、信用していいのかわからなかった。
この屋敷には、秘密が多すぎる。




